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2021年1月12日 (火)

トリアージ(Triage)の法的考察-COVID 19の蔓延との関係で(2)

前回の続きでトリアージ(Triage)についてのお話。

5.災害時のトリアージを参考にパンデミック時のトリアージを想定

 従来は自然災害によって多数の負傷者が出た場合を念頭に置いてトリアージが議論されていますので、具体的にどのようなことが行われるのかについて筆者の理解するところを記載します。

 まず、根本にある思想は「最大多数による最大幸福の達成」ということです。医療需給がひっ迫しているときに、限られた医療資源をどのように傷病者に割り当てるか、という課題の解決法と言い換えることができると思います。その判断は正確ではなければなりませんが、同時に迅速に行う必要もあり、正確性と迅速性というある意味相反する要請を調和させる必要があります。こうした判断を正確かつ迅速に行うため、医師その他の医療従事者のチームが編成されるとのことです。

 災害の場合、治療・搬送を要する傷病者を、①最優先で迅速な措置を要するもの、⓶待機してから治療しても間に合うもの、③軽微な傷病でそれよりもさらに遅れて処置をしてもよいもの、そして⓸治療の意味がないもの(=亡くなった人)の4つのグループに分けて、それぞれのグループに属する傷病者に、①は赤、⓶は黄、③は緑、⓸は黒のタグをつけるとのことです。

 COVID-19により医療需給がひっ迫した場合においても、災害の場合に準じたグループ分けがなされるのではないかと思います。例えば、①ICUでECMO(体外式膜型人工肺)を装着することを要する人は赤、⓶一般病棟での隔離と治療が必要な人は黄、③無症状でホテルでの隔離で足りる人は緑、といった具合ですが、実際のところは確認できていません。筆者の想像です。

 そして、災害現場でのトリアージと医療機関に搬送されたのちのトリアージの2つの段階で行われるとのことですが、パンデミックの場合は、現場でのトリアージは通常考えられないので、医療機関でのトリアージが中心になると考えられます。

6.災害時のトリアージと仙台地裁係属の民事訴訟事件

    新聞等の報道によると、トリアージに過失があったかどうかが争われている民事訴訟が係属中とのことです。事案の内容は、東日本大震災の際に搬送先の病院で行われたトリアージにおいて、③の緑(軽微な傷病で治療をしなくてもよいか、又は後回しにできる)とのタグを付けられた患者が、病院内の待機エリアで脱水症を起こして亡くなったというもので、遺族が病院を相手に損害賠償を求める民事訴訟を提起した事件です。→提訴に関するニュース  

 本件はその後どのようになっているのか筆者は知りませんが、トリアージの判断は正確かつ迅速という、場合によっては相反する要請を調和させて行う必要がありますが、迅速な判断をしなければならないため、時間をかけて正確な判断をすることができない場合もあると思います。

 そのため、医療機関の注意義務の程度は、トリアージが必要となる非常時・緊急時には軽減されるという議論もあり得ると思うのですが、「救急医療」の場合でも平常時の医療水準に従った注意義務が課されるというのが、現在の裁判所の考え方のようです。従って、治療の優先度の判断に誤りがあった場合、それが平常時の医療水準に達していないならば。医療従事者が過失責任を免れることは出来ないということになります。なお、このあたりについては永井幸寿弁護士の論文をご参照ください。→研究会報告「災害医療におけるトリアージの法律上の問題点」

(注記)

この記事は昨年緊急事態宣言が発出されたときに途中まで書いたまま、放置していたものです。当時は更に色々書こうとしてその後仕事が忙しくなり、今になっては何を書こうとしていたのかも思い出せません。(欧米との宗教の違いも背景事情にあるのではないかということを書こうとしていたみたいです。)従って、論述として中途半端な内容ですが、昨今の感染者数の急増から医療崩壊が迫っている現実に直面し、何かご参考になりそうな情報を提供できればと思い、この記事をアップさせて頂くことにします。(2021年1月12日記)

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