再生医療法(2)-生殖補助医療と再生医療
前回のブログ記事では、再生医療の例や再生医療の種類を中心に再生医療法の概観を致しました。
今回はその続きとして、再生医療法の適用範囲に関する疑問を扱います。
なお、予めお断りしておきますが、以下に述べるものは全て公開資料によるものですので、限定された情報に基づく考察に過ぎません。その意味で、記事の正確性については、吟味が必要です。
4.生殖治療と再生医療
再生医療等委員会の話に移る前に、再生医療法の適用範囲について一つ問題提起をしたいと思います。
再生医療法の施行令によれば、ヒトの精子や未受精卵に加工を施す医療技術は、再生医療法の対象外とされており、学会が定めるガイドラインに従って行うという理解をしているのですが、そこで想定されているのは、排卵誘発剤を使用したり、第三者から卵子や精子の提供を受けるものとか、或いは精子や未受精卵を凍結保存したり、体外受精をさせて体内に戻すといった治療と思います。
ところが、調べているとアメリカの例ですが、新しい不妊治療として、妊娠を望む女性の卵巣の表面を一部採取し、それを遠心分離機を使ってミトコンドリアを採取する。⇒そのミトコンドリアを卵子の前駆細胞に注入することによって、老齢化とともに劣化している卵子を若々しいものに変えて、受精⇒細胞分裂を促進するというものがあります。これは、老齢化とともに女性の体内で作られる卵子が劣化するので、高齢の女性の生殖補助医療の成功率が低いという問題があることを解決するための医療技術で、ミトコンドリアの細胞活性化機能に着目したもの(というのが筆者の理解です。)があります。
米国では食品医療品局(FDA)はこの手法について、FDAの承認が必要との見解を示しているとのことで、以前調べたときにはFDAの承認が得られていないので、米国内では実施が出来ないとされていました。FDA未承認とすると、安全性や有効性の確認ができているのかどうか、疑問があるところです。
上記の米国で開発された不妊治療と同様の治療が、昨年(2017年)日本で行われたとの報道があり、某女優が受けたといわれている不妊治療もこの種の治療かも知れません。もっとも、この種の不妊治療がどの程度広まっているのかは筆者は知りません。
こうした不妊治療が再生医療法の対象となるのかどうか。再生医療法の対象となるものは、「ヒトの身体の機能の再建、修復」であり、卵子を若返らせるというのは、これに該当するのではないかとの疑問があります。更に、ミトコンドリアはDNAを含んでいるので、ミトコンドリアを卵子の前駆細胞に注入するのは、遺伝子操作にあたるのかどうか。ちなみに遺伝子操作を行うものは、第1種再生医療技術となります(再生医療法施行規則第2条)。海外では第三者である若い女性から採取したミトコンドリアを使用する臨床実験も行われたことがあるようであり、こうした治療における安全性の確保は重要な課題のようにも思われます。
しかしながら、再生医療法の施行令第1条によれば、ヒトの未受精卵に加工を施す医療技術は、再生医療法の対象外とされていますので、上記のような生殖補助医療でも再生医療法の対象外とみなすことも考えられます。そうすると、医師個人の判断で患者との信頼関係に基づき再生医療法による規制を受けずに実施できるとも考えられます。
おそらく再生医療法の適用範囲か否かを判断するには、当該不妊治療の内容を精査する必要があると思いますが、筆者は医療の専門ではないので、その点は何とも意見を述べることが出来ません。従って、適用範囲にすべきという意見を述べているわけではないです。
しかしながら、この問題の背後にあるのは、従来ほとんど法的な規制がなかった自由診療に対して、規制の網をかぶせていくのか、それとも、規制は最小限にして、医師の良心に基づく判断にゆだねるのか、という政策的な判断があるのではないか、というのが筆者の考えです。
医療技術の進歩の促進という面では、新しい医療技術の開発を大学病院などに限定せずに、個人クリニックでも行わせることにより、広い裾野を作るというのは重要なことであると思いますが、他方において、安全性や有効性が確認できない診療を、自由診療の下で野放しにするのは如何なものか、という疑問もあります。
そのように考えますと、再生医療法とは、自由診療の領域に一石を投じた法律なのだと思います。
次回(再生医療の安全性と妥当性)に続く⇒http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/3--f081.html
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