Simple Agreement for Future Tokens (SAFT)について(2)(米国法関係)
前回に続いて、Simple Agreement for Future Tokens(SAFT)の話です。
前回の記事では、SAFTの特徴を挙げたうえ、SAFTが"Investment Contract"(投資契約)の形式で発行され、SAFTの対象となる「トークン」が商品・サービス購入の対価として使用されるユーティリティ・トークンである理由は、米国の証券法上の「証券」の意義に関係があることを述べています。(前回記事⇒http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/simple-agreemen.html)
今回は、SAFTの特徴として、適格投資家(accreditted investor)限定として発行されている点を述べ、その他の関連事項について触れます。
4.米国の証券規制-2(「適格投資家」向け私募)
SAFTにより投資家から資金調達をする場合、ネットによる募集を行われますが、米国証券取引委員会(SEC)はネットによる募集は、"general solicitation"(一般勧誘)としてSECへの登録が必要になるとしています。しかし、SAFTを利用するようなスタートアップ企業には公募としてSECへの登録を行う資金的余裕はありません。
そこで、SAFTは"accreditted investor"(適格投資家)向け募集によって発行されています。"accreditted investor"(適格投資家)とは、銀行や証券ディーラーやブローカーのような典型的な機関投資家以外に、資産が500万ドル以上の企業、純資産が100万ドルまたは過去2年間の年収が20万ドルを超える個人などと定義されています。
適格投資家向け私募は、Regulation Dと呼ばれるSECが定める登録免除にかかる規則に定められており、(i) 適格投資家に対して募集するのであれば、35名以内の一般投資家に対しても募集が可能ですが(§203.506(b)の定め)、ネットによる募集による場合一般投資家に対する募集を限定することが困難ですから、(ii)募集相手の全員を適格投資家に限定すること(§203.506(c)の定め)によらざるを得ないのが実情です。従って、筆者が調査したところでは、例外なく適格投資家限定で発行されています。
但し、全員を適格投資家に限定する場合、投資家に「自分は適格投資家に該当する」旨の表明保証をさせるだけでは不十分であり、発行体は「証券」の買主が適格投資家であることを証明する(verify)証拠(税務申告書、預金の残高証明など)を取得することを要します。
なお、Regulation Dにより発行された証券については、転売制限があります。
ということで、SAFTの場合、ネットによる募集によることから、投資家の全員を適格投資家に限定し、転売制限を課すことによって販売しているのが、一般的と考えられます。
米国内での私募の場合、"Private Placement Memorandum"(私募目論見書)を作成することを要するので、ネットにも落ちていますので、ご興味のある方はDLをしてご覧になると良いと思います。
5. New York州における仮想通貨に関する規制
SAFTの”Private Placement Memorandum"(私募目論見書)を調べてみますと、米国内での販売制限について、Regulation Dを前提にしたと思われるもの以外に、New York州の居住者を販売の相手方から除外しているものがあります。これは何故でしょうか?
本記事の執筆時点(2018年6月)の段階では、筆者が知る限り、連邦法のレベルでは仮想通貨を直接規制する米国の法律は無いようです。しかしながら、州法のレベルでは、ニューヨーク州、ワシントン州、カリフォルニア州、フロリダ州、コティカット州においては仮想通貨にかかる規制する法律があるようです。
このうち、ニューヨーク州の規制を調べると、日本の資金決済法の仮想通貨の定義と似た定義が行われており、"Virtual Curency Business Activity"(仮想通貨ビジネス活動)に従事する場合にはライセンスが必要とされています。
このうち仮想通貨ビジネス活動の定義の中に”Controlling, administering, or issuing a Virtual Currency"(仮想通貨のコントロール、管理又は発行)というものが含まれています。(Section 200.2 (q) (5), Title 23, New York Codes, Rules and Regulations)
どうやらSAFTをニューヨーク州の居住者に発行する場合、この規定が障害になると考えられているようで、現地の法律事務所のニュースレターでも、最近の傾向としてニューヨーク州の居住者を販売の相手方から除外するのがトレンドになっているという記事を読んだことがあります。
本記事の執筆時点(2018年6月)においては、他の州では仮想通貨に関する規制が導入されていないようですが、立法化を検討している州が複数あるとの情報もあります。
ニューヨーク州の仮想通貨に関する規制がSAFTに適用されるべきかどうかの議論がなされているようですが、今後他の州でも同種の立法がなされるようになると、SAFTの流行も下火になる可能性もあると筆者は考えています。
ブロック・チェーンに関する米国での論議としては、その他UCC(統一商法典)のArticle 8の規定の適用について論じているものもあります。(Reade Ryan and Mayme DOnohue, "Securities on Blockchain", Business Lawyer Vol. 73, Winter 2018-2018) (https://www.hunton.com/images/content/3/5/v2/35271/ABA_The_Business_Lawyer_Securities_on_Blockchain.PDF.pdf)。ブロック・チェーンの仕組みを分かりやすく記載しているので、お勧めです。
次回は、海外で発行されたSAFTの日本法との関係についての記事を書かせていただく予定です。
(以下次回記事につづく)⇒http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2018/07/simple-agreemen.html
【SAFTの記事(1)~(3)の目次】
米国法関係
- SAFTとは何か?
- 米国の証券規制-1(「証券」の意義)
- SAFTの仕組み-1(「証券」の定義との関係)(以上1から3までにつきhttp://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/simple-agreemen.html
- 米国の証券規制-2(「適格投資家」向け私募)
- New York州における仮想通貨に関する規制(以上4と5につき本ブログ記事)
我が国の規制との関係(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2018/07/simple-agreemen.html)
- はじめに
- 有価証券性
- 金融商品取引業
- 適格機関投資家等特例業務
- 自己運用
- 資金決済法との関係
- J-SAFTについて
- ブロック・チェーンの技術
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