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2017年6月

2017年6月22日 (木)

イスラム金融(63)Dana Gasスクーク債の事実上のディフォルト

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、アラブ首長国連邦(UAE)のガス事業の会社であるDana Gas社が、「2013年発行2017年満期のスクーク(イスラーム債)は、イスラーム法(シャリーア)に違反し、UAEの法律に抵触する違法なもの」と自ら主張し、スクーク所持人である投資家を相手にリストラクチャリングの交渉を開始していることについて、物議を醸しています。→https://www.reuters.com/article/dana-gas-sukuk-restructuring-idUSD5N1FR01L

スクークの発行時には当然イスラーム法学者よりイスラーム法に合致する旨の意見書をもらっているはずなのですが、Dana Gasは、今になって「あれはイスラーム法に反するものだった。だから、近々到来する配当(金利に相当する)はできない。」と主張しているわけですヾ(.;.;゚Д゚)ノ。同社は、既存のスクークを新たに発行する4年物のスクークと交換する旨を提案しているのですが、その配当率は既存のものに比べて半分以下であり、PIK(金銭以外の配当)も行うというものです。Dana Gasの提案については、同社のWEBサイトをご参照ください。スクークの目論見書も掲載されています。→http://www.danagas.com/en-us/investors/sukuk-information

上記引用のDana Gas社のWEBサイトによれば、同社は、UAEの裁判所において、既存のスクークの合法性の宣言を求め出訴したとも書かれています。自分で違法と言っておきながら、合法性の宣言を裁判所に求めるというのも理解に苦しむ点です。訳が分かりません。┐(´-`)┌

当然投資家は反発しており、Dana Gasは資金不足に陥っているので、イスラーム法違反を口実に支払いを延期しようとしているのではないかとい見方がされているようですが、この記事では、法的な分析をしてみたいと思います。

1.イスラーム法と制定法であるUAEの法律は別である。

 問題のスクークの準拠法は英国法ですが、債務者であるDana GasはUAEの会社ですから最終的に強制執行する段階ではUAEの法律が問題になると考えられます。このブログ記事でも何回も書いていますが、イスラーム法は法典を持たない規範であり、イスラーム教徒全体で共有されているもので、国単位で定められる法規範ではありません。これに対して、UAEの法律は、イスラーム法を考慮して制定されているとしても、法典化されている法律であり、イスラーム法とは別のものです。

 イスラーム法と制定法との関係については、イスラーム国家によって異なりますが、UAEの場合は、民法の解釈はイスラーム法の原則に従うとしつつ、イスラーム法が適用されるのは、制定法に規定がない場合とされています。(UAE民法)

 したがって、Dana GasのWEBサイトにあるようにUAEの裁判所へ出訴しているならば、UAEの裁判所はまず、民法その他の制定法を適用するのではないかと思われます。

2.金利に関するUAEの法律とUAEの最高裁判決

 Dana GasのWEBサイトでは、本件スクークが違法である理由が書かれていないのですが、おそらくイスラーム法上の金利の禁止に抵触するということが一つの理由になっているのではないかと思いますので、このことを前提として、金利に関するUAEの法律と裁判所の判断を検討します。

 イスラーム国家によって制定法上の金利の扱いは異なりますが、UAEでは民法に金利を禁止する趣旨の規定があるのに対し、商法では金利を認めています。スクークは商取引と思われますので、商法上は違法とは言えないという理屈も考えられます。

 過去に金利付き取引はイスラーム法に反して違法と債務者が主張した事案において、「必要性があれば、禁止されることも認められる。」というイスラーム法の原理もあると述べたうえ、「社会的な利益を守らなければならない場合、イスラーム法は例外を認めている。」と述べて、債権者が金利をとることを認めた最高裁判決もあります。

 このような商法の規定や最高裁判決からすると、Dana Gasの事件についても、UAEの裁判所は、本件スクークは金利の禁止に抵触するものの、無効にはならない、という趣旨の判決を下す可能性はあるのではないか、と筆者は考えています。

3.シャリーア適格という当事者の意思の尊重

 もっとも、本件スクークはイスラーム法に合致する、いわゆるシャリーア適格の有価証券として発行するというのが、当事者の意思であったと考えられますから、仮に金利の禁止に抵触するならば、当事者の意思に合致しないということを理由に本件スクークは無効と判断される可能性も他方において存在するとも考えられます。

4.本件の注目度

 UAEの裁判所がどのような判断を下すかはわかりませんが、過去においても、イスラーム国家の債務者が、金利の禁止に抵触するということを口実に債務の履行を拒否した事例はあり、本件はそのような事例の一つと考えてよいと思います。

 商法や過去の裁判例を踏まえてUAEの裁判所がどのような判断を下すのかは非常に興味深いところです。

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