イスラム金融(60)平成27年銀行本体によるイスラム金融の解禁(5)商品の売買が含まれる預金の受け入れと同様の経済的効果を有する取引
今回は、平成27年のイスラーム金融に関する監督指針の改正の5回目となります。
1.コモディティ・ムラーバハによる預金
改正された銀行の監督指針の(3)の②として、「…商品の売買が含まれる預金の受入れと同様の経済的効果を有する取引(法第10条第1項第1号に該当するものを含む。)…」と書かれています。
これはコモデティ・ムラーバハによる貸し付け類似行為と逆のパターンとなります。すなわち、預金者は商品市場においてコモデティを預金元本相当額で購入して、これを銀行に延べ払いで売却します。この預金者の銀行に対する延払い債権は、元本に一定のマージンを加えた金額に設定され、この延払い債権が預金者の預金債権に該当することとなります。銀行は、預金者から購入したコモディティを即時に商品市場において売却し、元本相当額を入手することになります。
スキーム図を付けましたので、ダウンロードをしてご覧ください。
「scheme_of_murabaha_deposit.pptx」をダウンロード
銀行は商品市場において即時にコモディティを売却しますので、結局残るものは預金者の銀行に対する延払い債権(=預金債権)ということになります。銀行は、預金者の代理人(wakala) として、預金者のために商品市場においてコモディティを購入しますので、結局預金者としては銀行に対して預金するお金を渡すだけで済むわけです。
改正された監督指針によれば、コモディティとしては商品取引所において売買できる物品をいうとされており、かつ商品に関するリスクを取らないとされていますので、即時売却可能でかつ瑕疵担保などの商品に関する責任を問われないような物品に限定されることになると考えられます。
2.その他の預金形式
イスラーム金融における預金としては、上記のようなコモディティ・ムラーバハを利用したもの以外に、我が国の匿名組合に類似するムダーラバ預金とか、代理を意味するワカラ預金とか、さらにはパートナーシップに類似するムシャーラカ預金を利用しているものがあり、ムダーラバ預金などはイスラーム地域ではかなり一般的なものと聞いているのですが、改正された監督指針においては、こうした方式の預金は正面からは認められていません。
その理由は公刊物では明らかではないのですが、ムダーラバ、ワカラ、ムシャーラカは、それぞれ、匿名組合契約、代理、民法上の組合に近い契約類型ですが、銀行の付随業務として銀行法第10条第2項に列挙された取引に匹敵するものがないという考え方ではないかと思われます。
また、実質的に考えた場合、ムダーラバ、ワカラ、ムシャーラカは投資契約としての性格を有するので、金銭の消費寄託のように、預金者に対する元本保証が法的な権利として認められないということで、我が国の銀行法でいう預金取引に類似する取引とは認めがたいという判断がなされたとも考えられます。
元本保証が法的に認められない類型を預金取引と扱うには、監督指針の改正ということではなく、銀行法本体の在り方も再検討をする必要があり、厖大な検討期間が必要となるので、こうした取引類型について、監督指針の改正で正面からは認めなかったのではないかと思います。
平成27年の銀行の監督指針の改正に関する過去の記事は以下の通りです。
総論http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/56271-ff68.html
貸付と同様の経済的効果を有する取引(1)…「売買」http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/57272-732b.html
貸付と同様の経済的効果を有する取引(2)…「賃貸」http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/582732-1169.html
貸付と同様の経済的効果を有する取引(3)…「顧客の行う事業に係る権利の取得」http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/592743-4670.html
以上
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