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2015年11月

2015年11月28日 (土)

イスラム金融(57)平成27年銀行本体によるイスラム金融の解禁(2)貸付と同様の経済的効果を有する取引(1)

前回においては、平成27年銀行本体によるイスラーム金融の解禁について総論的な話を書きました。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/56271-ff68.html今回からは各論に移ります。

改正された監督指針においては、貸付、預金、デリバティブについて、「同様の経済的効果を有する取引」という定め方をしています。改正された監督指針については、金融庁のHPをご覧になってください。http://www.fsa.go.jp/news/26/ginkou/20150401-3.html

本日はパブコメ回答及び金融庁の方が書かれている文献(全国銀行協会「金融」818号3頁以下)(以下両者を合わせて「パブコメ回答等」と略す。)を参考に、各取引類型ごとに検討をしてみたいと思います。

1.「貸付等と同様の経済的効果を有する取引」であって、「当該取引に商品の売買が含まれる場合」

a. 商品の売買が含まれるイスラーム金融の類型の代表的なものとしては、ムラーバハ(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.html )とサラム(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/20_ad49.html )があります。

ただし、監督指針によれば、ここでの「商品」は「取引所において売買することができる物品をいう。」と規定されています。従って、ムラーバハでも、取引所で売買される金属やパーム油を使った、「コモディティ・ムラバーハ」が対象になっていると考えられます。パブコメ回答等でもそのように書かれています。

b. ムラーバハとは、以前のブログで解説したとおり、資金提供者(イスラーム銀行)が商品をXリンギで購入し、これを直ちに資金需要者(借主)に、代金延払いで転売します。転売代金はXリンギに金利分を上乗せした価格とするので、資金需要者が商品を受け取った後は、資金提供者の資金需要者に対する転売代金債権が残ることになり、これによって、利息付の金銭消費貸借と同様の取引を意図しているものです。

コモディティ・ムラーバハのうちでもタワルックといわれる取引があります。タワルックにおいては、売買の対象となる商品は取引所で売買される金属やパーム油などを使っており、資金需要者は商品を受け取ったら直ちに取引所で売却して、現金化します。一連の取引を即時に行えば、結果的には資金提供者は資金需要者に対する延払い債権を取得し、他方、資金需要者はXリンギの現金を受け取ることになるので、金銭の借り入れをしたことと同様になるわけです。わかりにくい方は図をご参照ください。→「tawarruq2.pptx」をダウンロード 上の図が銀行が資金提供者になった場合を前提としています。

タワルックについては、そのイスラーム法(シャリーア)適格性に関して、イスラーム法学者の間では見解の対立があるようですが、活発に行われており、タワルックを利用したスクーク(イスラーム債)も発行されています。

「監督指針」においては、取引所で売買される商品を使った売買とされていますので、おそらくタワルックのような取引を念頭に置いているものと考えられます。

もっとも、「貸付と同様の経済的効果を有する取引」であったとしても、イスラーム法(シャリーア)による制約は存在し、例えば、遅延損害金を課することは原則として認められないという問題もあります。

c. 従って、ムラーバハでも以前このブログで紹介をしたマレーシアのBai 'al Bithaman Ajil(→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/55-7e2d.html)を利用した個人向けの住宅ローンに相当するものは対象外になると考えられます。売買の対象が取引所で売買されていない住宅だからです。

  筆者は、ムラーバハは輸出金融におけるバイヤーズ・クレジット・ローン(いわゆるバイクレ・ローン)(解説→http://www.city-yuwa.com/explain/ex_glossary/detail/buyers_credit.html)に向いていると思っていました。海外でもムラーバハによるバイクレ・ローンが行われた事例があるようです。しかしながら、特定物が売買の取引の対象の場合におけるムラーバハが、監督指針上容認されないとすると、何らかの工夫をしない限り、ムラーバハによるバイクレ・ローンは難しいように思われます。

d. 次に、「監督指針」においては、「当該商品の売買代金に係る信用リスク以外に商品に関するリスク…を銀行が負担していないこと」と書かれています。コモディティ・ムラーバハは商品の売買と転売の形式をとっているので、商品の売買に付随する様々なリスクに晒される可能性があるのですが、海外の例ではムラーバハ契約の契約書またはこれに付随する書面において、金融機関が信用リスク以外のリスクを取らないように工夫されているものがあります。

この点について論じると、論点が多岐にわたりますので、このブログ記事ではパブコメ回答にあるものを中心に書きます。

パブコメ回答3番では、「物件の売買に関して借入人の事務の代理行為を行うことは一般的に可能」と述べているのは、コモディティ・ムラーバハ取引の実態において、借入人に相当する資金需要者が取引所で商品の売買を行うことは行っておらず、資金提供者が商品の取引にかかる手続をいわば代行しているからです。これは資金提供者が商品の取引にかかる手続を、一手に行うことにより、事務的なミスにより即時に売買が行われず、その結果銀行が商品の価格の変動リスクに晒されることを回避する目的があると筆者は考えています。

次に、資金提供者が商品を取引所で購入したのに、資金需要者が買い取りを拒否した場合、資金提供者である銀行は現物を保有することになり、その価格の変動リスクにさらされる可能性も理論上はあります。このような場合に備え、資金需要者にはあらかじめ商品の買い取りについて一方的約束(Undertakinng) (Wa'ad(ワアド)と呼ばれています。)をさせ、一方的約束に反した場合には、資金供給者がこうむった損害を賠償させるといった対応がとられています。Wa'ad(ワアド)については、以前解説をしたことがありますので、そちらの記事をご参照ください。→イスラム金融(19)「特約条項」の項目http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/19_1e15.html

また、パブコメ5番のコメントでは「資金の出し手(銀行)の商品売買に関する損害は資金の受け手が補償する」という契約文言を入れることにより、銀行が信用リスク以外のリスクを負わないようにするということも書かれていますが、パブコメ回答ではこれだけで信用リスク以外のリスクを全部回避できるかどうかは疑問という趣旨のことが記載されています。

e. これまで述べたコモディティ・ムラーバハ以外に、サラムの中にも取引所で売買される金属を使ったイスラーム金融の取引があります。パブコメ回答等においては、こうしたサラムが「貸付等と同様の経済的効果を有する取引」であって、「当該取引に商品の売買が含まれる場合」に該当するのか否か、特に言及されていませんが、サラムを使った流動性資金の調達も行われていますので、これを排除するものではないと思われます。

次回は、「貸付と同様の経済的効果を有する取引」の2つ目であるイジャーラやイスティスナァを扱います。

2015年11月20日 (金)

プロジェクトボンドとNegative Carry

1.プロジェクトボンド及びNegative Carryとは?

インフラ事業の資金調達方法としてプロジェクトボンドというものがあります。要するに、プロジェクト会社が社債を発行して資本市場から直接資金を調達する方法なのですが、我が国では、先例はほとんど無いに等しいのが実情です。

筆者もインフラ事業関連のファイナンスの相談を受けた際に、プロジェクトボンドの可能性を検討したことはあったのですが、資金調達のためのいくつかの選択肢の一つとして挙がっていても、検討の途中においていつの間にか消えていました。

プロジェクトボンドが結局実現しなかった原因の一つとして、Negative Carryと称される問題が指摘できます。有名な論点なので、ご存じの方も多いと思いますが、念のため筆者の理解を記載します。

インフラ事業ではプロジェクトが完成して、事業のための借入金の返済を行うことができる段階(いわゆる「プロジェクトの完工」)に至るまで、数年以上かかるものもあります。ところで、インフラの建設工事においては、各段階ごとにマイルストーンを設定し、マイルストーンが達成されたときに、下請業者に対して請負代金を支払っています。従って、あるプロジェクトの事業資金として100必要であっても、Day 1に100全額支払われる訳ではなく、マイルストーン達成のたびに、小出しに支払われていくわけです。

ローンによる事業資金の調達の場合、金融機関による貸し出しのコミットメントに基づき、プロジェクト会社は、必要な額の資金を必要なときに借り出して、下請業者らに支払えば済むわけですが、社債による事業資金の調達の場合、Day 1に事業資金の全額が手に入るので、これを小出しに使うとなると、社債の発行により調達した資金を、預金か何かの方法で保有せざるを得ません。ところが、社債の金利は預金の金利よりも高いので、結局この金利差がプロジェクト会社にとって無駄な支出となってしまうわけです。

これをNegative Carryといいます。

Negative Carryの問題があるために、特に工期の長いプロジェクトの場合、ローンによる資金調達に比べ割高になるということもあって嫌われる原因の一つのようです。

2.Forward Purchase Bondの仕組み

最近、といっても去年の話ですが、ベルギーの道路に関する官民連携事業(PPP)の資金調達のために発行されたプロジェクトボンド(VIA A11 NV)において、Forward Purchase Bondという仕組みが取り入れられているのが話題を集めています。http://www.iflr.com/Article/3330646/A11-proves-governments-will-back-project-bonds.html

Forward Purchase Bondとは、プロジェクトボンドを発行したと同時に発行体(プロジェクト会社)がこれを買戻し自己社債とするもので、その後Bond Purchase Agreementにおいて、社債の購入のコミットメントを行った機関投資家が、プロジェクト建設の進捗に応じて、発行体が保有している社債を、当初に約定した代金において買い取り、その買い取り代金をもってプロジェクト会社は下請業者らへの支払いを行っていく、というものです。

プロジェクトボンドが自己社債である間は、発行体としては金利の支払いが必要ではなく、また当面不要な資金を預金などで寝かせておく必要がなくなるということで、Negative Carryの問題を解決した事例と評価できるのではないかと思います。

我が国の会社法の解釈としては、発行体が自己社債を取得しても社債は混同によって消滅しないと考えられており(橋本「社債法」(商事法務)2015年、54頁)、ほかに検討すべき問題はあるとは思いますが、我が国でも同様のスキームを採用することができるかもしれません。

3.その他

上記のVIA A11 NVのプロジェクトボンドは、European Investment Bankが建設期間中において、スタンドバイ信用状(Letter of Credit)で、劣後債権者の地位に立つことによって、信用補完を行っています。

官民連携事業(PPP)は、官において行うべき事業を民が行うという側面がありますので、官による支援が許されるというロジックはありうると思います。特に、「グリーン・フィールド」と呼ばれる建設期間中のプロジェクトがキャッシュフローを生まない段階での官の支援の在り方としては参考になるのではないかと思います。

4. 今後の展開

これまではプロジェクト資金の調達は銀行ローンが中心であったと思われますが、銀行の自己資本規制の強化に伴い、銀行ローンによる資金調達に限界が出てくると思います。そのような時代になったときに、銀行ローンに代わり資本市場からの直接の資金調達であるプロジェクトボンドが注目を集めるようになると思います。

以上

2015年11月12日 (木)

イスラム金融(56)平成27年銀行本体によるイスラム金融の解禁(1)

1.銀行本体によるイスラム金融の解禁

ちょっと古い話になり恐縮ですが、平成27年4月1日から「主要行等向けの総合的な監督指針」及び「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」が改正され、平成20年の銀行法施行規則では子会社・兄弟会社方式でなければ、我が国金融機関がイスラム金融に参入できなかったところを、銀行本体でも参入できるようになりました。パブリックコメント及びこれに対する回答については、下記の金融庁のHPをご参照ください。

http://www.fsa.go.jp/news/26/ginkou/20150401-3.html

2.改正の背景

これは、平成26年に開催された内閣府規制改革会議貿易投資等ワーキンググループ第9回(平成26年3月4日開催)において、

a. 従来の子会社・兄弟会社方式の場合、現地規制上、子会社等単体でも自己資本比率規制の制約を受けることとなるために、大規模案件への参画が困難になる事例も存する。

b. 欧州系の銀行においては、(利息を禁止する)イスラム金融を(利息付の取引である)一般の銀行業務と同等の業務という整理で、銀行本体での取り扱いが認められているので、本邦の銀行が国際競争上不利な立場に立つ。

c. イスラーム金融を行うためには、同一地域に支店がある場合でも、イスラーム金融を扱う現地法人の設立が必要となり経営資源の有効活用の上で問題がある。

等々の規制改革要望が出されたことが背景になっていると思われます。このあたりの経緯の詳細については、下記のHPをご参照ください。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg2/boeki/140304/agenda.html

3.改正の考え方

平成20年に子会社・兄弟会社方式によるイスラーム金融の取り扱いが認められたときには、銀行法施行規則が改正されています。その際に筆者が書いたブログ記事は下記のとおりです。

イスラム金融(26)銀行法施行規則の改正http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/26-0b4c.html

イスラム金融(27)銀行法施行規則の改正(2)
http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/272-10ba.html

イスラム金融(28)銀行法施行規則の改正(3)
http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/283-d35f.html

イスラム金融(29)銀行法施行規則の改正(4)
http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/294-c325.html

イスラム金融(30)銀行法施行規則の改正(5)
http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/305-4d01.html

イスラム金融(31)銀行法施行規則の改正(6)
http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/316-99f6.html

イスラム金融(32)銀行法施行規則の改正(7)
http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/327-edb3.html

今考えてみると、直すべきところはたくさんありますが、何らかの参考になればと思います。

ところが、今般銀行本体によるイスラーム金融の取り扱いが解禁された際には、銀行法や銀行法施行規則などの法令の改正ではなく、金融機関に対する監督指針の変更という形で行われています。これは何故でしょうか?

前記の「内閣府規制改革会議貿易投資等ワーキンググループ第9回(平成26年3月4日開催)」の議事録を見ると、銀行法や銀行法施行規則の改正で行くのか、それとも銀行法第10条第2項の「その他の銀行業に付随する業務」の中にイスラーム金融が含まれるという解釈で行くのかについて、参加者が議論をしており、どうやら、後者の考え方が採用されたのではないかと思われます。

もう少し詳しく述べると、銀行法第10条第1項第2号では、「資金の貸付け」という表現をとっており、金銭消費貸借という民法上の用語を使っていません。上記の議事録にもある通り、立法者が意図的にざっくりとした表現を使って、規制法規である銀行法を弾力的に運用できるようにしたものと考えられます。この点が罪刑法定主義による刑罰法規とは考え方が違うところなのではないかと思います。

また、付随業務についても、銀行法第10条第2項各号において、具体的な事業を列挙しているものの、同条同項本文の柱書ではやはりざっくりとした書き方をして、新しい業態が生じた場合にでも弾力的に運用できるようにしているものと考えられます。

以上の整理に基づき、付随業務に含めることができる限りは、銀行本体によるイスラーム金融の取り扱いを認めることにしたものと考えられます。

4.改正の概要

「監督指針」の改正では、大きく分けて①資金の貸付等と同様の経済的効果を有する取引(銀行法第10条第1項第2号参照)、②預金の受入れと同様の経済的効果を有する取引(銀行法第10条第1項第1号参照)及び③金利・通貨スワップと同様の経済的効果を有する取引の3つの類型を規定しており、それぞれについて、それぞれの取引に含まれる要素として、「商品の売買」、「物件の賃貸」及び「顧客の行う事業に係る権利の取得」を規定したうえで、銀行において信用リスク以外のリスクを取らないことを条件としています。

a. 信用リスクと他業禁止

上記の「監督指針」の改正では、銀行において信用リスク以外のリスクを取らないことを条件としていますが、これはイスラーム教徒には批判的に受け止められる可能性があることに留意すべきです。というのは、

イスラーム教では利息の収受が禁止されていますが、その背景にある考え方は、資金供給者も資金需要者とともに、事業に関する様々なリスクを取るべきだという思想です。そうでなければ、資金供給者は資金需要者から搾取をしていると考えられているわけです。これはイスラーム金融の理念ではありますが、実際のイスラーム金融の取引では、資金供給者が事業に関する様々なリスクを取らず、信用リスクのみを取るように設計されているものが数多くあります。この点がイスラーム教徒の方々から「あるべき姿に反する。」との批判がある点であるわけですが、理念と現実とが乖離しているのが現実と思われます。

しかしながら、我が国の銀行法において、銀行による他業禁止が規定されているのは、銀行が信用リスク以外のリスクのある事業を営むことにより、その経営基盤を危うくすることを防止する目的によるものです。従って、信用リスク以外のリスクを取るようなイスラーム金融の取引に従事するようなことがあれば、それは、銀行による他業に該当することになり、「監督指針」の改正だけでは対応ができず、銀行法本体から根本的な改正をしなければならないと考えられます。仮に銀行法本体の改正を行うとすれば、非常に長い時間の改正作業が必要となることが予想されますので、金融庁としては、「付随業務」として説明が可能な範囲のイスラーム金融を解禁したものと評価することができると思います。

b. 既存の規制の枠内であること

もう一つ総論的な問題として指摘できることとしては、金融庁のパブコメ回答では、「銀行が営むことができる業務への該当性を判断する際には経済的効果だけではなく形式も考慮する必要があり」と述べたうえで、「物件の賃貸借の形式を有する場合(イジャーラを念頭に置いていると考えられる。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.html ) には銀行法第10条第2項第19号の要件を充足する必要がある」として、ファイナンス・リースの規定を引用している点です。

この部分は各論の解説をする際に改めて取り上げたいと考えているのですが、これは、付随業務として認められているファイナンス・リースについては、その形式が法定されているので、銀行法第10条第2項本文柱書で規定されている「付随業務」に含める場合でも、すでに規定があるファイナンス・リースの形式に準拠したものでなければならないという趣旨ではないかと思われます。

c. 銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2との関係

パブコメ回答によれば、今回の監督指針の改正は、子会社・兄弟会社方式によるイスラーム金融への参入を認めた銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の解釈には影響がないと書かれています。従って、たとえばスクーク、ムダーラバ及びムシャーラカについては、「有価証券の売買」にあたる場合もある、とされている部分などは、解釈には変更はないことになりますが、今回はムダーラバやムシャーラカなどの投資型/組合型のスキームについて、「金銭の貸付け」と同様の経済的効果のある取引も念頭に置いた改正をしていますので、この点は各論部分で扱いたいと思います。

今回は、総論部分であり、次回以降各論に移ります。

以上

2015年11月 4日 (水)

イスラム金融(番外)イスラム金融の講義をする予定です

筑波大学大学院ビジネス科学研究科(社会人向け)において、11月から開始するイスラム金融法講義の一部を担当します。
詳しくは、下記の筑波大学大学院のHPをご参照ください。
http://www.blaw.gsbs.tsukuba.ac.jp/

場所は茗荷谷、時間夜間(19:45~21:00(8時限))です。.教室は320番教室が予定されているとのことです。
講義内容及び講師陣については、上記HPに貼ってある講義計画をご参照ください。

本講座は公開講座ですので、一般の方でも申し込みなしに受講できるとのことです。

イスラム金融(55)ムラーバハ取引とコモンロー

最近ネット上で知り合いになったイスラーム金融を研究されている海外の方とのやり取りから知ったことを紹介します。

マレーシアにおいては、Bai' al Bithaman Ajil ("BBA")と呼ばれるイスラーム金融機関による融資形態があります。筆者は、BBAとはムラーバハ取引の一種と考えていますが、我が国の住宅ローンに相当する取引で使われており、これに関する裁判例もあります。

住宅の購入を例に、BBAを説明しますと、住宅購入者はXリンギでデベロッパーから購入した住宅を(図の①)、Xリンギで銀行に転売し(図の②)、銀行からこれをX+αリンギで延払いで買戻しをします(図の③)。住宅購入者は銀行から受け取ったXリンギをデベロッパーに対して支払います。その結果残るのは銀行の住宅購入者に対するX+リンギの割賦払債権となります。この債権は実質的には住宅ローン債権と同じです。

Bai_al_bithaman_ajil_3この取引が何故イスラーム教の利息の禁止にあたらないのでしょうか?

BBAについては、銀行との間の住宅の転売と買戻しは利息の禁止を回避するための仮装売買であるという批判があります。筆者がやり取りをしている海外の方の話では、BBAをイスラーム法に反しないと説明する理屈として、英米法(コモンロー)の概念であるbeneficial interest(またはbeneficial ownership)の概念を使って説明しているとのことです。

”beneficial interest"または"bebeficial ownership"は、我が国の法律には無い概念であり、実質的な所有権とでも訳することができるものです。

すなわち、住宅購入者がデベロッパーから住宅を購入するときには、beneficial ownership が住宅購入者へ移転し、これがイスラーム銀行への転売時にさらに、イスラーム銀行に移転すると説明しています。従って、買戻しによりbeneficial ownershipは、住宅購入者に戻るということで、仮装売買ではないという説明をしているとのことです。

なんだかわかったようでわからない理屈ですが、コモンローの伝統を継受しているマレーシアではこのような説明をしているとのことです。

筆者の想像ですが、中東地域と異なり、マレーシアのイスラーム法の解釈としては、ムラーバハ契約の代金債権(上記の例でいえば、イスラーム銀行の住宅購入者に対する債権)の額面以外での譲渡を認めているのは、こうしたコモンロー上のbeneficial interestまたはbeneficial ownershipの概念を認めていることと関係があるように思います。ちなみに、中東地域は大陸法系のシビル・ローであり、beneficial interestやbeneficial ownershipの概念はありません。

前回のブログでも、イスラーム債(スクーク)が信託受益権証書の形式で発行されることとコモンロー上のbeneficial interestとの関係を説明しましたが、これと何らかの共通性があるように思います。すなわち、イスラーム法の解釈・適用において、コモンローにおける概念を援用しているという点で、本来はイスラーム教徒にとって国境を越えた普遍的な法であるはずのイスラーム法の解釈・適用が、各国の制定法または判例法によって変容を受けているということが言えないでしょうか?

以上

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