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2014年5月

2014年5月26日 (月)

イスラム金融(53)プライベート・エクイティ・ファンド(2)

イスラーム流プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)の解説の続きです。前回分はこちらをご参照ください。→「イスラム金融(52)プライベート・エクイティ・ファンド(1)」(→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/521-7c64.html )

1.Debt型取引に従事することの可否
  我が国の投資事業有限責任組合法では、投資先が一時的にキャッシュ・フローが不足したときを想定して、ファンドから投資先へ融資をすることが認められていますし、外国の例では投資効率を上げるためにファンドにおいて借入をすることも行われています。

  西欧的ファイナンスではこうした取引を、金利付きローンで行う訳ですが、前回のブログでも書きました通り、理論上は、金利の禁止は投資先の事業のレベルだけではなく、ファンドのレベルでも適用されます。従って、ファンド自体も金利付きの取引(たとえば利息付借入)ができないと考えるイスラーム法学者もいます。

  そこで、シャリーア(イスラーム法)に準拠したプライベート・エクイティ・ファンドにおいては、イスラーム法で認められたイジャーラ(リース)やムラーバハといった契約類型を用いることによって、金利付きローンと同様の経済効果を達成しようとしています。

  イジャーラに関する解説はこちらをご参照ください。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.html また、ムラーバハに関する解説はこちらをご参照ください。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.html

  ファンドから投資先へ融資をする場合を想定しますと、イジャーラやムラーバハといったイスラーム金融の手法を利用する場合でも、貸金業規制法の適用が問題となると考えられます。このことは、銀行法施行規則が改正された際の金融庁のパブリックコメントにおいて、イジャーラとかムラーバハといった取引は、貸付と経済的実質が同じであるため、貸金業規制法の適用を受けるという趣旨のことが述べられています。従って、運用を担当するジェネラル・パートナーは、貸金業の登録をすることが必要となるのではないかと考えられます。

  また、不動産に関するイジャーラやムラーバハであれば不動産特定共同事業法の適用も考えられますし、イジャーラやムラーバハに利用する資産がその他の規制の対象である場合には、こうした実物取引に関する規制法の適用を受けると考えられるので、ファンドから投資先へDebt型取引により資金提供するために、イスラーム金融を利用するのはハードルが高いと考えられます。

  さらに、イジャーラやムラーバハを我が国で行う場合には、消費税がかかる可能性があります。イジャーラを利用した米国における不動産ファンドの実例では、Tax Matter Agreementなる契約を締結し、取引の形式は不動産賃貸借であるが、実質は金利付きローンであると規定して、これによって内国歳入庁に金融取引とみなしてもらっている事例もありますですが、日本の国税庁を相手にこうした交渉は困難なものと思われます。

  もっとも、ファンド資金のDebt型取引への利用について、すべてイスラーム金融の手法によらなければならないかどうかについては、前回のブログで述べた投資対象のスクリーニング基準と同様に、例外が認められる可能性もあるのではないか、と筆者は考えています。

2.ファンドの余資運用
  何等かの原因でファンドに現金が滞留した場合、これを金利が発生する預金口座において保管することができるのでしょうか?シャリーア適格のPEファンドであるためには、余資運用についても検討を要すると思われます。これは上記の項目1の論点と問題の性質は同じと考えられます。

  金利の禁止について厳しい立場で考えると、シャリーア適格のファンドの場合、金利付きの預金口座や国債で余資を運用できないので、これをムラーバハとかイジャーラといったイスラーム法で認められた方法で運用すべきことになると思われますが、わが国の国内でこれを行った場合には、現物取引として消費税等の税金がかかるなど、上記の項目1の「Debt型取引に従事することの可否」で述べた問題が発生するのではないかと考えられます。

   そうだとすると、ファンドに現金を滞留させず、すぐに投資家に分配するような仕組みにせざるを得ないのでしょうか…。

   もっとも、金利の禁止の厳格さの程度については、シャリーア(イスラーム法)学者の間でも意見が一致していないようですので、少額であれば金利付きの預金口座や国債などで余剰資金を運用することを認めてもらえるかも知れません。

3.投資先のモニタリング
  投資先の選定については前回のブログで書かせていただきましたが、投資先のモニタリングもシャリーア・ボードの意見に従って行われます。

  こうした点の表れとして、投資先との投資契約書においては、投資先がシャリーア違反の事業を行わないように、誓約条項(covenants)において投資先の事業活動に縛りを入れるということが海外では行われているようです。例えば、金利付き借り入れをしない、あるいはスクリーニング基準に照らして許される限度でしか金利付き借り入れをしない、といったものは代表的な条項と考えられます。

  前回のブログで述べたとおり、投資先が一切金利付きの借り入れをしてはならないとされているわけではなく、一定の限度での金利付き借り入れを認めているようです。但し、金利付きの借り入れをしている投資先会社がある場合、シャリーア・ボードは、当該会社に対して、3年以内に金利付き借り入れを解消し、ムラーバハとかイジャーラといったイスラーム法上認められている資金調達方法に変更するように指導をする場合もあるという情報もあります。これはイスラーム教が人口の太宗をしめる地域での話ですが、実際に日本の会社を投資先とする場合、シャリーア・ボードがどの程度シャリーア順守を要求するのか関心のあるところです。万一、イスラーム法に従った資金調達方法に変更するよう指導を受けたとしても、現在の銀行法施行規則の運用では、日本国内では銀行がイスラーム金融子会社を設立することは認められていませんので、金利付き銀行借り入れを、イスラーム金融に変えることが困難となるからです。そうすると、デット・エクイティ・スワップか何かを使って、金利付き負債をなくす方法が考えられますが、シャリーア順守という目的で日本の金融機関がそのようなことをするかどうかは疑問ですね。

  もう一つの問題としては、投資契約締結時には投資先はシャリーア違反ではなかったが、その後違反が生じる場合どうするかという問題があります。例えば、金利付きの借り入れをしている会社を想定すると、投資時には総資産に対する借入金の比率が低かったので、投資先のスクリーニング基準に反しなかったが、その後会社の総資産が減少し、借入金の比率が上昇し、投資先のスクリーニング基準に抵触したような場合です。

  海外の例では、こうした場合、PEファンドに関する契約書において、イスラーム投資家がopt-outするという条項を入れることがありますし、あるいはイスラーム投資家が異議を述べるということにしているというのがあります。もっとも、このような条項は日本の投資事業有限責任組合法11条においては組合員の任意脱退を禁止しているので、有効性に問題があるかも知れません。

4.ファンドの法律構成
    海外でのイスラーム流PEファンドは、リミテッド・パートナーシップ(すなわち、投資家は有限責任パートナーとして出資し、無限責任パートナーが投資先の選択、投資先のモニターといった役割を果たす。)の形態をとるものが多く、会社形態のファンドは少ないようです。

  我が国でリミテッド・パートナーシップ類似の形態によるファンドを組成するとしたら、投資事業有限責任組合法による投資事業有限責任組合または商法上の匿名組合あたりを利用することになるとかんがえられ、そうすると、ファンド持分は金融商品取引法における「2項有価証券」と扱われるのではないかと思います。

  準拠法の選択としては、日本法でもできるはずです。但し、シャリーア(イスラーム法)に抵触しない内容でないと、シャリーア適格のプライベート・エクイティ・ファンドとはみなされません。イスラーム法と準拠法の選択の問題については、本ブログで扱ったことがありますので、そちらをご参照ください。
↓↓↓↓↓↓
イスラム金融(9)準拠法の選択とイスラム法
イスラム金融(44)準拠法の選択とイスラム法(その2)」
イスラム金融(24)わが国の実体法との調和
イスラム金融(39)IFSBのイスラム金融セミナーへ行ってきました(その6)(シャリーア(イスラム法)と世俗法との衝突に関する判例)」

5.ファンドの運用者
  イスラーム流のPEファンドにおけるファンド・マネージャーは、イスラーム法ではムダーラバにおけるムダーリブ(ムダーラバとはイスラーム流の匿名組合契約であり、ムダーリブとは匿名組合の営業者に該当する。)またはワカラ(代理)と構成されています。

  ムダーラバにおけるムダーリブの場合、ムダーラバの営業から利益が生じた場合(すなわちファンドの運用によって利益が生じた場合)にのみ、予め投資家との間で合意された割合に従って、利益分配を受けるので、固定報酬は原則としてありません。

  これに対して、ワカラ(代理)の場合、固定報酬が原則となっていますが、現代のシャリーアの解釈としては、変動報酬も認める説もあるようです。

  我が国においてイスラーム流PEファンドを投資事業有限責任組合または匿名組合として組成するならば、ファンド・マネージャーについては、原則として金融商品取引法に基づく登録が必要となるといった点は、通常のプライベート・エクイティ・ファンドとは異ならないと考えられます。

6.イスラーム投資家と非イスラーム投資家の共同投資形態
  イスラーム流PEファンドには、西欧型のファンドにはない数々の制約があります。例えば、前回のブログで述べたPurification(浄化、cleansing)の要請のために、せっかくの投資の利益の一部を慈善団体に寄付するというのは、非イスラーム投資家にとって投資意欲を減殺する要素と感じられることは多いと思います。

  そこで、海外では、イスラーム投資家が投資するファンドと非イスラーム投資家(「世俗投資家」(Secular Investors)とも呼ばれる)が投資するファンドを分けて、相互に影響を与えないようにするスキームが考案されています。このようなアプローチを"ring-fence"アプローチと言っており、同じ発想によるアプローチは、プロジェクト・ファイナンスの世界でも、同一のプロジェクトにおいてイスラーム金融と西欧型の金融とが併存する場合に採用されています。

   方法として考えられるものとしては、
   a.  シャリーア適格のパートナーシップとシャリーア不適格のパートナーシップとを並行的に両立させ、一緒に投資させるもの(双方のパートナーシップとジェネラル・パートナーとの間で「共同投資契約」を締結する。)
   b.  イスラーム投資家用のフィーダー・ファンドと非イスラーム投資家用のフィーダー・ファンドを作り、両方のファンドから実際の投資活動を行うマスター・ファンドに資金を供給するというもの
   が考えられます。

   aとbの違いは、マスター・ファンドを作るかどうかにあります。bのスキームにおいて、マスター・ファンドは、シャリーア・ボードの助言に従って運用されますが、マスターファンドに資金を供給する非イスラーム投資家用のフィーダー・ファンドは、シャリーア・ボードの助言に従わず、運用されますので、例えば、金利付きの預金で余資を運用することや金利付きの借り入れを起こして、レバレッジを効かせるということも可能となります。

  いずれのスキームにおいても、非イスラーム投資家用にシャリーア不適格のパートナーシップを作ります。非イスラーム投資家は、シャリーア不適格のパートナーシップに出資をします。このパートナーシップにおいては、シャリーア適格を考える必要がないので、前回のブログで述べた「浄化」(Purification, Cleansing)などは必要ではありません。従って、投資先の会社の事業に含まれるシャリーア不適格な営業からの収入(たとえば、ホテルのバーからの収入や金利収入)を慈善団体に寄付する必要はなく、非イスラーム投資家への配当に回すことができます。

  但し、aとbいずれのスキームにおいても、投資先の選定等については、イスラーム投資家の意思を尊重し、前回のブログで述べたシャリーア適格の投資先のスクリーニング基準によって投資されます。ポイントは「浄化」(Purification)によって慈善団体に寄付することによって、ファンドの非イスラーム投資家の配当に回らない収益を可及的に少なくするところにあります。

  aとbのいずれのスキームにおいても、イスラーム投資家用のファンドと非イスラーム投資家用のファンドでは、「浄化」(Purification)の要否が異なるので、双方のファンドの間でファンドからの収益に関して、例えば次のようなウォーター・フォールを作ることになります。

  第1順位:イスラーム投資家と非イスラーム投資家との出資割合に応じて、イスラーム投資家が受領できる金額を上限として、シャリーア適格な収入のみをイスラーム投資家へ配当する。
  第2順位:シャリーア適格の収入だけでは不十分な場合は、シャリーア不適格な営業からの収入が混じっているファンドの収益を、イスラーム投資家が受領できる金額を限度として、イスラーム投資家用のファンドへ配当する。(但し、シャリーア不適格な営業からの収入については、「浄化」(Purification)として慈善団体へ寄付する。)
  第3順位:残りを非イスラーム投資家へ配当する。

  海外のイスラーム流プライベート・エクイティ・ファンドでは、こうしたストラクチャリングが採用されているものもあるのですが、個別のファンドの組成にあたって、イスラーム法(シャリーア)上認められるかどうかについては、当該ファンドの設立にかかわったシャリーア学者の意見によるので、常に可能かどうかは確実とは言えません。また、わが国の投資事業有限責任組合法や商法上の匿名組合に関する規定との関係でこうしたウォーター・フォールを作ることが可能かどうかといった問題も検討する必要がありますが、一つの解決策として興味深いものと思われます。

  先日、新聞記事その他で日本初のシャリーア適格のプライベート・エクイティ・ファンド(PNB-INSPiRE Ethical Fund)が設立された旨が報道されており、PNB-INSPiRE Ethical Fundの仕組み図 (→http://www.inspirecorp.co.jp/pief/ )もネット上で公表されていますが、この点はどのように解決しているかは明確ではありません。念のため、中小企業基盤整備機構のプレスリリースに出ている仕組み(→http://www.smrj.go.jp/fund/chosa_joho/press/087720.html )も見てみましたが、ring-fenceアプローチは採用されているかどうかは記載されていません。ring-fenceアプローチの採用もシャリーア・ボードの意見のお墨付きが必要となりますし、取引全体の仕組みも複雑になるので、採用しないということで割り切っているのかも知れませんね。

以上

 

2014年5月 4日 (日)

イスラム金融(52)プライベート・エクイティ・ファンド(1)

今年に入って、わが国の企業が関係するシャリーア(イスラーム法)適格のプライベート・エクイティ・ファンドの組成のニュースが報道されています。一つはSBIとブルネイ財務省とのイスラム適格ファンドの設立であり(→http://www.sbigroup.co.jp/news/2010/0325_3152.html )、もう一つはインスパイアがマレーシアの政府系投資機関であるPNBと共同して設立したシャリーア適格のプライベート・エイクティ・ファンドの設立です。(→http://www.inspirecorp.co.jp/information/49/ )今回と次回はシャリーア(イスラーム法)適格のプライベート・エクイティ・ファンドについて扱ってみたいと思います。

1.シャリーア(イスラーム法)適格のプライベート・エクイティ(PE)ファンドの意義
  シャリーア(イスラーム法)適格ファンドとは、イスラーム投資家がイスラーム教の教えに反しないで投資活動ができるように考案されたPEファンドであって、以下にのべるようないくつかの特色があります。

2.シャリーア(イスラーム法)適格のファンドの特徴ーその1(シャリーア・ボード)
  シャリーア適格のPEファンドの一番大きな特色は、(i) ファンドの組成がシャリーア適格かどうかと(ii) ファンドの運用がシャリーア適格かどうかという点について、シャリーア・ボード(シャリーア委員会)と呼ばれるイスラム法学者の合議体の意見(fatwaと呼ばれる)に従って判断されるというところにあると思います。

  通常シャリーア・ボードは3人のイスラーム法学者から構成され、全員一致で決定されるのが一般のようです。

  イスラーム法学者は、弁護士のような国家資格があるわけではなく、イスラーム法について研究をしているイスラーム教徒であってイスラーム教徒の信用を集めている宗教的指導者であればよいようです。国家資格もないので、「自称イスラーム法学者」も数多くいるようです。ちなみに、アルカイーダの指導者であったウサマ・ビン・ラディンも「自称イスラーム法学者」であったと伝えられています。

  シャリーアの考え方は、学派によって異なりますし、また地域によっても異なります。従って、シャリーア・ボードの構成員として異なる学派の学者を入れ、ファンド投資家の地域とファンド投資先会社の地域の学者を選ぶといったことが行われています。これは、ファンド投資家は、自分がいる地域の自分が信奉する学派のイスラーム法学者の意見に従うからです。

  【注:シャリーア・ボードについては、かつてこのブログで扱ったことがありますので、こちらをご参照ください。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/35ifsb2-b750.html fatwaについての過去の記事はこちらです。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/fatwa_d981.html

  また、ファンドの目論見書や商品内容説明書の中ではシャリーア(イスラーム法)に従った投資方針が記載され、当該ファンドのシャリーア・ボードの構成員が開示されることになっています。

3.シャリーア(イスラーム法)適格のファンドの特徴ーその2(投資先の選定)
  二つ目の特徴としては、投資先がシャリーアに反しないことにあります。この関係でハラル(Halal)とハラム(Haram)という用語があります。ハラル(Halal)とはイスラーム教において許されていることであり、ハラム(Haram)とはイスラーム教において許されないことという意味であり、シャリーア適格PEファンドは、ハラム(Haram)とされるものかかる事業をしている会社を投資対象としません。以下のものがハラム(Haram)とされるものに含まれます。

  ・ アルコール(従って、酒造会社はダメです。アルコールを口に入れることはダメで、味醂(みりん)を使った食品でもハラムとされます。)
  ・ タバコ(飲酒の禁止との同じ趣旨でハラムとされます。)
  ・ 豚肉(牛肉や鶏肉はOKですが、処理の方法がイスラーム教にのっとったものでなければなりません。また調理や配膳をするときも、豚肉を切った包丁や豚肉を載せた食器はダメとか、細かいルールがあります。)
  ・ ポルノや娯楽(ポルノがダメというのはわかりますが、映画やゲームもダメと言われています。ところが、任天堂を投資対象にしている投資ファンドもあり、よくわからないところです。)
  ・ 賭博
  ・ 武器の製造や売買
  ・ 金利(銀行やノンバンクに対する投資は出来ませんし、事業会社に対する投資においても問題となります。これが一番問題になるので、別項目を設けて解説します。)

  例えば、加工食品について、ハラル(Halal)かどうかの判定をシャリーア・ボードにお願いする場合、食品の加工プロセスについて、デューデリジェンスが行われます。我が国でも拓殖大学イスラーム研究所などでハラル(Halal)判定をしているとの話です。ハラル認証の詳細については、JetroのHPをご覧ください。→http://www.jetro.go.jp/world/japan/qa/export_01/04A-090901

  想像するに、加工食品の場合には、食品衛生法などの規制の問題もありますし、風味を良くするために、色々な添加物を加えたりしていると思いますので、ハラル(Halal)認証を受けるのは結構大変ではないかと思います。

  筆者も、イスラーム圏に居住する方から、日本のホテルを買収をして、ハラル(Halal)認証を受けたホテル営業をし、イスラーム圏からの旅行者を誘致したいので、候補先を探してもらえないか、という相談をされたことがありましたが、考えると難しい問題はあります。アルコール類や豚肉を使った料理は出せないのは当然として、調理場でも豚肉は別に保存しなければなりませんし、豚肉を調理した調理器具は別にしなければならないなど、面倒です。さらに考えると、ホテルにはバーがあります。バーでは酒を出します。これも問題となります。ホテルの娯楽施設として各部屋で映画が見れるようになっていますが、これはどうか、というように様々な問題があります。さらには、イスラーム教徒用のお祈りの場所の用意も検討課題です。従って、コスト増につながることは確実ですよね。

  従って、食品以外の製造業のほうが投資先として選択されやすいと思います。食品関係では、加工食品よりも農作物のほうが無難というところでしょうか…。

  娯楽関係もハラル(Halal)とハラム(Haram)の境界線がよくわからないところです。以前のブログ記事で、「盲導犬の取引は良いが愛玩犬の取引はダメ」ということを書いたことがありますが(→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/5_c07e.html )、ペット関連のビジネスも問題があるかも知れません。

  なお、投資先のスクリーニング基準については、過去のブログにおいて触れたことがありますので、そちらをご参照ください。→「イスラム金融(11)」投資ファンド

4.ハラム(Haram)(シャリーア違反)な事業活動からの収入
  直前の項目で述べたような投資先のスクリーニングのルールを厳格に適用した場合、投資先の選定は非常に限定されてきます。そこで、ハラム(Haram)な事業活動からの収入の会社の収入全体に占める割合が、無視できるほど少ない場合には、ハラム(Haram)な事業活動からの収入が含まれていても、投資先としてもよいとされており、その割合については、公開株式の場合、5パーセントというのが一番多く使われている基準のようです。(この点は、イスラーム法学者の間でも意見は一致していないようであり、海外の文献を見ると、15パーセントまでOKとか、事業内容によってもっと高いパーセントまでOKとか色々あります。)

  先ほどのホテルの例をとれば、バーからの収入が5パーセント以下であれば、そのようなホテルへの投資も可能と考えられるのではないかと思います。もっとも、起業から間もない未上場会社の場合、会社全体の売上も少ないでしょうから、こうした収入基準が適当かどうか疑問を呈する人もいるようです。

  但し、投資先からの収入の中に、ハラム(Haram)な事業活動からの収入が混入している場合、後述の「浄化」(Purification, Cleansing)と呼ばれているシャリーア適格ファンド特有の処理が必要とされています。
  

5.利息の禁止との関係
  利息の禁止は、ファンドのレベルと投資先の会社のレベルとの双方で問題となりますが、ファンドのレベルでの問題については、次回以降の記事で扱うことにして、まずは、投資先の会社のレベルについて述べることにします。

  イスラーム法における金利の禁止とは、金利を受け取ることの禁止と金利を支払うことの禁止の両方を含んでいます。また、禁止される金利には遅延損害金も含まれますし、割引債のように実質金利にあたるものも許されていません。シャリーア適格のファンドでは、投資基準において、投資先の会社がこのような金利の禁止に抵触する事業活動をしていないことを要求します。しかしながら、これを厳格に適用するとしたら、投資可能な会社がなくなってしまいます。そこで、現代のイスラーム法学者たちは、投資先の選択基準において、投資先がどの程度の金利関連の事業活動に従事できるかについて、ファトワ(fatwa)と言われる意見書を発行しています。この点もイスラーム法学者たちの間で意見が分かれています。

  主に問題となるのは、(i) 投資先会社の金利付き債務の総資産に対する割合、(ii) 投資先会社が保有する現金や利息付債券の総資産に対する割合、(iii) 投資先会社が保有する受取債権(account receivable)の総資産に対する割合です。この割合が3分の1以上であると、投資先として不適格という考え方がありますし、50パーセントまでは許されるという考え方もあり、シャリーア学者の間でも意見は一致していないようです。この3分の1基準とは、預言者ムハンマドが「3分の1以上になれば多数である。」と述べたという故事に由来していると言われています。

  以前のブログ記事でご紹介をした投資先のスクリーニング基準は、投資先が上場会社である投資ファンドに関するものでしたので、時価総額(market capitalization)を基準にしていましたが、未上場会社を投資先とするプライベート・エクイティファンドでは、時価総額の代わりに、総資産が分母として使われているようです。

  上記の二つ目の基準である(ii) 投資先が保有する現金や利息付債券の総資産に対する割合ですが、なぜ現金の保有が制限されるかと言えば、イスラーム法では、現金は即時に名目価格で取引されるものであるという原則に関係があります。

  上記の三つ目の基準である(iii) 投資先の受取債権の保有についてですが、マレーシアでは異なった考え方がとられているようです。というのは、中近東地域をはじめとするイスラーム圏の多くでは、額面額によらない債権の売買(譲渡)はシャリーアに反すると考えられていますが、マレーシアでは、シャリーア適格な契約から生じた債権であって、金銭支払義務以外の義務が履行されている場合には、額面額によらない債権の売買(譲渡)も認められているからです。従って、マレーシアでは、三つ目の基準は要求されないか、あるいはシャリーア適格な契約から生じたものであれば、総資産に対する割合は問わないという考え方になると思います。このあたりは、ファンドのシャリーア・ボードの考え方によって異なると思います。

  我が国の企業を投資対象とした場合、我が国の中小企業の実態として、借入金への依存度が高いところから、上記の一つ目の投資基準との抵触が問題となりやすいのではないかと思います。例えば、投資時にはシャリーアのスクリーニング基準を満たしていたが、その後負債が増えたような場合、デット・エクイティ・スワップなどを使って、デット・エクイティ・レシオを改善する必要が出てこないかな、と考えています。

6.シャリーア(イスラーム法)適格のファンドの特徴ーその3(「浄化」(Purification)
  「浄化」(Purification)とは、PEファンドの収益の中にハラム(Haram)なものが混じっている場合に、これを収益から取り除くため、これを慈善団体に寄付し、収益を「浄化」(Purification)するというものです。"Cleansing"という言葉を使うこともあります。寄付先としての慈善団体は、イスラーム圏ではイスラーム系の慈善団体とされているようです。

  「浄化」の考え方は、イスラーム金融においてしばしば現れるものです。例えば、金利の禁止には、遅延損害金の禁止も含まれているので、ムラーバハとかイジャーラといったイスラーム金融の契約書では、遅延損害金に相当するものを債務者からとった場合でも、これを慈善団体に寄付するという、いかにも「イスラーム教的な」規定が含まれて場合があります。(もっとも、遅延損害金の扱いについては、考え方が分かれるようであり、当該案件のシャリーア・ボードの考え方に従うことになります。)

  「浄化」のため慈善団体に寄付をしなければならないのは、ハラム(Haram)な事業から生じた収益のすべてです。たとえば、全体としてはハラル(Halal)な事業であっても、その一部にハラム(Haram)な事業が含まれている場合には(先ほどの例ではホテル内部にあるバーからの収入です。)、その一部の事業から生じた収益に対応するファンドの利益は「浄化」の対象です。利息の禁止に抵触する場合も同様です。たとえば、上記のとおり、一定の限界のもとで、金利付債券を保有している会社に投資することが認められますが、金利付債券から生じた収入に対応するファンドの利益は「浄化」の対象として慈善団体への寄付が必要とされています。

  もっとも、ファンドの収益のどの部分が投資先のハラム(Haram)な事業活動によって生じたものであるか、特定することが非常に困難です。この点については、イスラーム法学者の間で意見が一致している計算式のようなものは存在しないようです。そうすると、それぞれのファンドのシャリーア・ボードがファンドの収益のうち「浄化」として慈善団体に寄付すべき金額を決めるということになると思います。

  「浄化」の方法としては、ファンドのレベルで行う方法と投資家のレベルで行う方法とが考えられます。
  ファンドのレベルで「浄化」するとは、投資家への配当を行う前に、ファンド全体の収益の中に投資先のハラム(Haram)な事業活動からの収入が含まれている場合には、その分を慈善団体に寄付し、残りの「浄化」されたファンドの収益を投資家へ配当するというものです。
  これに対して、投資家のレベルで「浄化」するとは、ファンドの収益の中に投資先のハラム(Haram)な事業活動からの収入が含まれていたとしても、ひとまず投資家へ配当し、投資家において、配当のうち「不浄」な部分相当額を慈善団体に寄付するというものです。
  どのような方法で「浄化」をするかは、当該PEファンドのシャリーア・ボードの意見に従うことになります。

  先般日本の会社がマレーシアの政府系投資機関と連携して、シャリーア適格のプライベート・エクイティ・ファンドを立ち上げたという報道がなされていましたが、このファンドがこの点をどのように処理しているのか、関心があるところです。というのは、日本国内で立ち上げるファンドなので、イスラーム教徒でない投資家がほとんどと考えられます。イスラーム投資家の手には、ハラム(Haram)なもの、つまり不浄なものが渡らないようにする必要はあるのでしょうが、投資家がイスラーム教徒でなければ、そのような必要性は無いはずです。せっかく投資によって収益が生じても、その一部を慈善団体に寄付するというのでは、ファンドの収益性を下げるものとなってしまいます。

  「浄化」の問題以外にも、イスラーム投資家と非イスラーム投資家とが併存している場合の論点については、次回以降のブログ記事で扱いたいと思います。本日は疲れてきたので、ここまでとします。

実はかなり前にも、イスラーム資本による企業買収という観点から、このテーマでのブログ記事を書いたことがあります。→「イスラム金融(11)投資ファンド」(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/11_9305.html ) 「 イスラム金融(14)アブダビ政府系ファンドによる神戸医療特区への投資」→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/14_8590.html )大分古いものですので、資料的価値は落ちていると思いますが、現在でもなお通用すると思われる個所もありますので、ご参照をいただければと存じます。

以上

 

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