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2012年4月

2012年4月30日 (月)

イスラム金融(47)日本版スクーク(J-Sukuk)の準拠法と発行地の選択

平成23年の資産流動化法の改正により、特定目的信託を利用した日本版スクーク(J-Sukuk)の発行の促進のための税制を中心とした立法措置が取られ、本年4月からは「ほふり」の振替制度も整備され、いよいよ実現のための環境が整ってきたこともあり、少しずつ具体的な話も増えてきているようです。

筆者が知る限り現時点ではまだ具体的なディールとして結実しているものは存在しないようですが、ひとつ最近質問を受けた論点について、解説をしてみたいと思います。

それはディールのストラクチャリングを行う上で生じた疑問だと思いますが、日本のJ-Sukukの制度と従来外国においてスクーク(イスラム債)発行のために使われていた制度(例えば外国法に基づく信託宣言(我が国の信託法の自己信託に相当するもの))との間でどのような棲み分けが行われるのかという論点です。

この点についての筆者の意見は、二つの大きな要素があると思います。

その一つは、スクークをどこで発行するか、という発行地の問題です。日本版スクークの制度は、投資家が外国投資家であっても、日本国内で発行することを意図していますから、発行地が日本の場合には資産流動化法による特定目的信託を利用した日本版スクークを発行し、発行地が外国の場合には発行地における信託制度又はケイマン諸島あたりのタックス・ヘイブンにおける信託制度のもとでの信託宣言(declaration of trust)を使うというのが順当なところだと思います。この点は誰でも思い至るところだと思います。

もう一つは、スクークの裏付け資産の所在地です。過去このブログにおいて何度も述べているところですが、スクーク(イスラム債)は西欧型金融における社債と経済的に同じ目的をもって発行される有価証券ですが、西欧型金融における社債と大きく異なるところは、西欧型金融における社債は金銭債権を表章した有価証券であるのに対して、スクーク(イスラム債)の場合には、必ず何らかの裏付けとなる資産が必要です。

この裏付け資産は、不動産でも動産でも、或いは完成した物件でも未完成の物件でも構わないのですが、金銭とか金銭債権以外のものであることが必要です。(この点マレーシアでは緩やかな考え方が取られていると言われていますが、取り敢えず、この点は捨象します。)

それは、スクーク(イスラム債)の投資家は、単なる金銭債権に対する持分ではなく、実体のある裏付け資産(不動産や動産)に対する持分を取得し、資金需要者(オリジネーター)とともに、当該裏付け資産を利用した事業のリスクを共有すると考えられているからです。

この裏付け資産が日本国内に存在する場合には、資産流動化法のJ-Sukukの仕組み(或いは税金のことを度外視すれば日本の信託法)を使って、日本国内でスクークを発行することになりますし、また、裏付け資産が海外に存在する場合には、その裏付け資産の所在地における法律に従って、信託宣言を行うなどのストラクチャリングをするのが一番無理が無いと考えられます。

資産流動化法は海外の資産を特定目的信託の資産として受託すること自体を禁止している訳ではありませんが、海外の資産を日本の信託会社が受託するかどうかは現実的には難しいのではないかと思います。逆に日本国内の資産を海外の信託会社に信託財産として受託させることも実際上は難しいと思います。信託会社としては信託を受託する資産の管理責任を負うわけですから、よくわからない国外の資産を信託財産として受託することには抵抗するのではないかと思います。

従って、裏付け資産がどこにあるかによって、資産関連の準拠法は大きく左右されるということは否定出来ないことではないかと思います。

日本国内の資産を裏付け資産とするが、スクーク(イスラム債)の発行は国外で行いたいという場合には、例えば、日本国内の資産をオフショアのSPCへ譲渡し、オフショアのSPCが信託宣言を行い、それを信託財産として信託受益権証書という形でスクークを発行することは考えられます。実際に中近東の国の資産をケイマン諸島で設立されたSPCに譲渡し、当該SPCが信託宣言を行なって信託受益権証書という形でスクークを発行した事例はあります。しかし、我が国の場合、不動産を外国(法)人に譲渡した場合には、一般の外国人との不動産取引と同じ課税が行われると思います。そうなると、実際上このスキームは採用しにくいのではないかという疑問が生じます。

税金の問題を考えると特定目的信託を利用して、例えばリパッケージ債のような形で海外で別のSPCに特定目的信託の社債的受益権を譲渡し、海外のSPCがそれを裏付けとして信託受益権証書を発行するというのが考えられますが、その場合の障害となるのが、イスラム法では金銭債権はスクークの裏付け資産とはならないという点です。社債的受益権は金銭債権を表章した有価証券と考えられるので、これをリパッケージした信託受益権証書はスクークとは呼べないのではないかという疑問です。

そこで、海外にある実物資産をもスクークの裏付け資産として追加し、海外SPCが保有する資産のうち、実物資産の価額が全体の50パーセント超とすれば、ハイブリッド型のリパッケージ債としてスクークの発行もできそうな感じもします。過去に発行されたスクークの目論見書を見ると、実物資産と金銭とをスクークの裏付け資産としていると考えられる事例があり、その事案では実物資産の価額をスクークの裏付け資産全体の価額の50パーセント超としているものがあるからです。このようなものでもイスラム法学者からシャリーア(イスラム法)適格の意見書を得ているようですから、全くダメとも思えないのですが、シャリーア(イスラム法)適格かどうかは個別具体的な事案ごとに判断することになっていますから、実際に実用化するとなると、イスラム法学者に色々と説明をする必要がありそうです。

ということで、我が国の税制上不利とならず、かつシャリーア(イスラム法)にも適合する日本のオリジネーターによるスクークを作るのは、それほど簡単なことではなさそうですね。

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