« 2009年10月 | トップページ | 2010年4月 »

2009年11月

2009年11月 9日 (月)

イスラム金融(39)IFSBのイスラム金融セミナーへ行ってきました(その6)(シャリーア(イスラム法)と世俗法との衝突に関する判例)

ISFB(Islamic Financial Services Board)のイスラム金融セミナーの2日目の最初のセッションであるセッション4の後半の報告です。セッション4の全部を記載した原稿を作ってみたのですが、長すぎるので、セッション4は前半と後半に分けることにしました。

Mohamad判事のプレゼンの後は、Charles Proctor弁護士(Bird & Bird法律事務所)及びHsan Rizvi弁護士(Taylor Wessing法律事務所)の二人のプレゼンでした。このうちRizvi弁護士の話はイスラム金融にかかる法律一般を扱っていたもので、筆者の関心を引くものではありませんでしたが、Proctor弁護士のプレゼンは、シャリーア(イスラム法)と英国法の衝突する場面についての話が含まれており、今後我が国でイスラム金融を扱う場合、同様にシャリーア(イスラム法)と日本法とが衝突する場面も生じうることから、筆者の興味を引く論点でした。本日はこの点を中心に扱います。

1. 準拠法の問題…英国の裁判例

Proctor弁護士が最初に言及したのが、イスラム金融に関する契約書の準拠法条項の解釈が問題となった英国の裁判所の判例です。

これは、Beximco Pharmaceuticals v. Shamil Bank of Bahrain & Othersという名前の事件であって、以前このブログにおいて触れたことがあります(→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/9_0c9c.html)。これを引用している邦語文献もみかけたことがあるので、有名な事件のようです。

この事件では次のような契約の準拠法条項の解釈が争点となりました。

"Subject to the principles of  the glorious Shari'a, the agreement will be governed by and construed in accordance with the laws of England"(試訳:栄光あるシャリーアの諸原理に従うことを条件とし、本契約は英国法に準拠し、解釈されるものとする。)

この準拠法条項は、シャリーア(イスラム法)と両立しない限度において英国法が適用されないという趣旨に読めますが、裁判所はシャリーアは国の法律ではないので準拠法になり得ないと述べ、英国法に従った判断をしています。

Proctor弁護士によれば、

  • サウジアラビアのようにシャリーアが一国の法律の最高位にある国である場合、別の判断もするのではないか。
  • そもそもこの事案において、Financerは裏付け資産のリスクを取っておらず、その意味ではシャリーアを適用していれば、問題がある事案とされたかも知れない。
  • しかし、英国の裁判所は英国法を使いたいというpolitical considerationがあったので、シャリーアの適用を退けたのではないか。
  • 本件の準拠法条項はドラフトの仕方として問題があり、準拠法としては英国法と明記しつつ、契約書の前文の部分でシャリーア(イスラム法)に従ったファイナンスであることを詳細に記載すべきであった。(この点についてはSession 4のコーディネーターRoberta Calarese女史も同じような発言をしていました。)

とのコメントを述べていました。

イスラム金融の契約書作成のテクニックとして参考になることだと思います。

そのほかイスラム金融に関する英国の裁判所の判例としては、

  • Islamic Investment Company v. Symphony Gems
  • Riyad Bank v. Ahli Bank (UK) plc

を挙げていましたが、前者はunderlying assetsのリスクは債務者が取ることになっていた事案でシャリーア(イスラム法)適格かどうか問題があった事案だが、裁判所はシャリーアの問題を回避して判断しており、講演のトピックに正面から応えたものではなく、後者はイジャーラ(イスラム流リース)のファンドのマネージャーの注意義務が問題となったケースだが講演のトピックとは関係がないとのこと。(ちなみに筆者は両方の判決の原文をチェックしてみましたが、準拠法条項についての判断らしきものはありませんでした。)

2. 宗教法であるシャリーア(イスラム法)と世俗法であるコモン・ロー(判例法)との衝突

Proctor弁護士によれば、上記の英国の裁判例よりも以下に紹介するマレーシアの裁判例のほうがシャリーア(イスラム法)とコモン・ロー(判例法)との衝突に関する研究には適切な題材であるとのことです。

筆者の注釈を加えますと、マレーシアは英国の植民地であったことから英国法の影響を強く受けており、英国のコモン・ロー(判例法)を継受しています。従って、マレーシアの裁判官は英国の判例法を引用して判断することもあるようです。

Proctor弁護士が引用した判例は以下の通りです。

  • Tinta Press v. Bank Islam Malaysia
  • Bank Islam Malaysia v. Adnan bin Omar
  • Arab-Malaysian Merchant Bank v. Silver Concepts
  • Bank Kerjasama Rakyat Malaysia v. Naval Dockyard
  • Affin Bank v. Zulkifli Abdullah
  • Arab-Malaysian Bank v. Taman Ihsan Jaya

全部の事案ではないのですが、これらの判例の事案において、マレーシアのシャリーア(イスラム法)解釈の下で許容されているイスラム金融の手法であるAl-Bai-Bithaman Ajil("BBA")というものが問題となっています。これは、金融機関が資金需要者(通常金融では借入人に該当する。)から不動産等を一旦買取り、これを資金需要者に対して分割払いで再売買する取引です。金融機関が資金需要者から資産を買い取ったときの代金が、通常金融における貸付け元本に相当します。再売買の価格は分割払いの期間の金利や手数料を考慮して、当初金融機関が買い取った価格に上乗せをした金額となります。この上乗せ部分が通常金融のローンで言えば、金利に該当します。従って、再売買をして資産を資金需要者に引き渡した後は、金融機関の資金需要者に対する分割払いの金銭債権が残るわけです。分割払いの金銭債権を担保するために、この資産には担保権(charge)が設定されます。

このような手法のBBAは銀行ローンと同じような経済効果を持つわけですが、一般の消費者の住宅金融にも用いられているおり、裁判所で争われた事案では10年以上の長期金融もありました。長期の金融になりますので、資金需要者(=実質は借入人)が銀行に対して支払う金額の総額は、銀行が当該資産を買い取った金額を大幅に上回る金額となることになります。

通常金融における銀行ローンでも長期のローンを組めば、金利部分が相当大きくなるので、満期まで支払う前提であれば、経済効果は銀行ローンと変わりません。

ところが、資金需要者(=債務者)が満期まで支払いを継続せずに途中でBBA契約の期限の利益を喪失した場合でもイスラム銀行との約定に基づく再売買の代金全額を支払わなければならないのでしょうか?判例で問題となったケースは、分割払いを開始してから間もなく分割払いの継続ができなくなり、イスラム銀行が担保にとった資産需要者(=債務者)の資産の担保権を実行したというもので、その場合、イスラム銀行は再売買の約定代金全額を債務者から受領できるのか?それとも、元本相当額とこれに対する債権回収日までの金利相当額しか受領できないのか?が争点になっています。

通常金融の銀行ローンであれば、元本に完済日までの金利を加算した額しか受領できないわけですが、もしも如何なる場合においてもイスラム銀行が再売買の約定代金全額を債務者から受領できるとしたら、当初予定の分割払い完了日までの金利を受領できるのと同じ結果となります。

Proctor弁護士が引用したAffin Bank Berhad v Zulkifli bin Abdullah (http://islamicbanker.wordpress.com/2008/07/11affin-bank-berhad-v-zulkifli-bin-abdullah/)においては、裁判所は、BBAが途中で期限の利益を喪失した場合には、資金需要者(=債務者)は満期までそのfacilityの便益を受けていなかったので、銀行が債務者から受領できるのは、元本相当額及び判決日までの金利相当額並びに債務者が完済する日までの金利相当額に限られるという趣旨の判断をしています。

Proctor弁護士は引用していませんでしたが、裁判所が同様の判断をしている事案として筆者が偶然見つけたものとしては、Malaysian Bank Bhd v. Ya'Kup Oje & Anor(http://www.cljlaw.com/public/cotw-070914.htm)というのもあります。

シャリーア(イスラム法)を形式的に適用すれば、イスラム銀行は再売買の代金を全額受領できたのかも知れないわけですが、裁判所は通常金融の銀行ローンと比べて不公平な結果となるのを回避するために、イスラム銀行が受領できる代金を実際上制限しているケースと考えることができ、マレーシアの裁判所の場合必ずしもシャリーア(イスラム法)の通り判断するわけではなく、この国におけるシャリーア(イスラム法)の国法上の位置づけについての考え方を窺わせるものであると思いました。

プレゼン終了後のフロアとのやり取りにおいても、シャリーア(イスラム法)学者は当該取引が例えば、ムダーラバ、ムシャーラカ、ムラーバハ、サラム、イスティスナー、イジャーラといったシャリーア(イスラム法)において認められている取引類型に形式的に合致するかどうかという判断をするだけであって、それ以上の判断はしないとのことですから、イスラム金融商品の開発をする場合には、シャリーア(イスラム法)学者の意見だけではなく、それ以外の適用法令についての専門家のアドバイスも徴求しなければならないということを示しているのだと思います。

なお、セッション4の前半部分http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/38ifsb5-0037.html)の記事で触れましたが、2009年の法改正により裁判所はシャリーア(イスラム法)の解釈が争点となった場合には、マレーシア中央銀行のシャリーア・アドバイザリー・ボードにreferしなければならず、裁判所はその判断に拘束されるとのことですので、このような法改正が上記の裁判所の考え方に影響が生じてくる可能性があるのかどうか少し関心があるところでしたが、フロアからの質問でもこの点まで踏み込んだものはありませんでした。

最後になりますが、マレーシアのイスラム金融に関する判例を集めた資料をネットで見つけましたので、ご参考のためにリンクを貼ります。→http://www.ifnforums.com/pdf/Reported%20case%20law%20on%20Islamic%20banking%20finance.pdf

以上

2009年11月 7日 (土)

イスラム金融(38)IFSBのイスラム金融セミナーへ行ってきました(その5)(イスラム金融に関する紛争処理-マレーシア)

1. 初めに

本日はIFSB(Islamic Fiancial Services Board)のイスラム金融セミナーの2日目のお話です。

2日目に開催された最初のセッションはセッション4「シビル・ロー制度とシャリーア・ルールとのインターフェース及び紛争解決手段」("Interlink/Interface between civil law systems and Shari'ah rules and principles and effective dispute resolution mechanism")で、スピーカーは、Tun Abdul Hamid Mohamad判事、Charles Proctor弁護士(Bird & Bird法律事務所)及びHasan Rizvi弁護士(Taylor Wessing法律事務所)の3人です。

Mohamad判事は英国法を継受したマレーシアの裁判官ですし、他の二人も英米法系の弁護士ですので、大陸法系の制度であるシビル・ローについての話ではなく、英米法であるコモン・ローとシャリーア(イスラム法)との関係についての話が中心でした。

参加者の反応が良く、終了後の拍手もひときわ高かったのは、Mohamad判事のプレゼンであり、いかにも裁判官らしいバランスの取れた問題意識を持っていると思いました。そこで、本日の記事はMohamad判事のプレゼンをご報告をしたいと思います。

2. イスラム金融の事件も通常の金融の事件も同じように扱われていること

Mohamad判事は開口一番、「控訴院と連邦裁判所における8年間の勤務の間に、イスラム銀行の事件に出会ったのは1件だけであり、その事件ではイスラム金融であっても、通常金融(conventional finance)と同じ法律が適用され、同じ救済が与えられる、という判断をした。」と述べています。

Al-Bai Bithaman Ajil(銀行が買主から一旦目的物を取得し、これを買主に掛売りで再売買するというマレーシアで認められているイスラム金融の手法;http://www.blogcatalog.com/blog/islamic-finance-in-malaysia/a795659d6776292d34fb60a385a4981b)における債務者の不履行による債務者の資産の売却命令申し立てやイスラム保険(Takaful)における交通事故による保険金請求は、通常金融/保険の事件と全く同じく処理され、それがイスラム金融/保険であることにつき格別の注意を払われず処理されるとのことです。

要するに、契約締結の時点では当該契約がシャリーア(イスラム法)に適合するかどうか問題にされるが、裁判所で履行を強制する場面ではシャリーア適格は通常問題とされないので、イスラム金融/保険の事件であることが意識されないまま、通常金融に関する事件と同様に処理されるということで、Mohamad判事いわく、イスラム保険(Takaful)において保険会社が当該保険契約はシャリーア(イスラム法)に違反することを理由に保険金支払を拒絶をすることは常識的にあり得ないとのこと。

3. シャリーア裁判所vs州裁判所/連邦裁判所

通常裁判所の裁判官はシャリーア(イスラム法)に詳しいわけではなく、シャリーアが争点となった事件をどの裁判所で審理をすべきかについては、論議があるようです。

この点について、Mohamad判事は、

  • バンキングや保険の問題は連邦法の問題で、州の問題に含まれるシャリーア裁判所で扱うべきではない。
  • シャリーア裁判所において当事者になりうるのはイスラム教徒であるが、法人である銀行や保険会社が適格性を有するか疑問である。
  • 救済手段の根拠となるのは、宗教法であるシャリーアではなく、世俗法である破産法、会社法、土地法等の法律であるから、宗教裁判所であるシャリーア裁判所に訴えても救済が得られない。
  • シャリーア裁判所の裁判官は世俗法に通暁しているわけではない。

等々の理由から事件をシャリーア裁判所において審理することには反対であり、連邦裁判所にイスラム取引裁判所を設けるという案も、

  • 連邦裁判所の裁判官はシャリーアに通暁しているわけではない。
  • クアラルンプールの連邦裁判所にこの種の事件を集中させるのは、当事者に負担をかける。

といった理由から反対であると述べられ、ベストな方法は、

イスラム金融に関する事件も通常の裁判所で審理し、シャリーア(イスラム法)が争点となったときに、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)のシャリーア・アドバイザリー・カウンセルに意見を求める方法であるとしています。

これは、2009年のBank of Malaysia Actが採用した立場であり、シャリーアが争点となった場合には、シャリーア・アドバイザリー・カウンセルにreferされ、同カウンセルの意見は裁判所(連邦裁判所も含む。)や仲裁人に対して拘束力があるものとされているそうです。

Mohamad判事のプレゼンの後でフロアから「シャリーア・アドバイザリー・カウンセルの判断が裁判所を拘束するというのは、司法が行政に権限の一部を委譲するもので三権分立の原則に反しないか?」という質問がありました。

これに対しては、シャリーア(イスラム法)は宗教法であって、legalな問題(世俗法という意味でのlegalという言葉を使っているのだと思います。)ではないから、憲法上問題はないとの回答でした。

また、「マレーシア中央銀行に設置されたシャリーア・アドバイザリー・コミッティにだけ意見を求め、その他の組織(例えばNational Fatwa Committee)へreferしないのか?」という質問も出ましたが、解釈の統一のためには一つの組織にreferした方が良いという回答でした。

(筆者の感想)

イスラム教を国教としているマレーシアにおいても、イスラム教徒の数は6割強程度という話を聞いています。つまり残りの4割近くの異教徒をも取り込んで、一国の司法制度を統一的に運営するためには、シャリーア(イスラム法)を争点とする事件も全て通常裁判所で処理するという道をとらざるを得なかったのではないかという気がします。

思うに、サウジアラビアのように人口の殆どがイスラム教徒であり、シャリーアが世俗法よりも上位にあって、(実際に利用するかどうかは別として)シャリーア裁判所は最高位にある地位が与えられているjurisdictionと比較すると大きな違いであると思います。

つまり、シャリーア(イスラム法)が国の最高法規であるならば、「シャリーア・アドバイザリー・コミッティーの判断が裁判所を拘束するが妥当か?」とか、「三権分立の原則に反しないか?」という問題意識は出て来ないと思うのですが、多民族・多宗教の国であるマレーシアでは、シャリーア(イスラム法)を国法の体系や国の制度の中でどのように位置づけるのかという問題意識が生じるのだろう、という感想を持ちました。

4. 金利におけるイスラム教徒と異教徒の間の不均衡

マレーシアの裁判所は、不履行をした債務者に対して判決の日から完済の日に至るまで8パーセントの金利を支払うよう命じることができるそうです。しかし、イスラム教徒にとって金利の支払を命じる判決は受け入れがたいはずです

金利の支払を命じる判決が欲しくないのであれば、金利の支払を求めなければ済むのかも知れませんが、非イスラム教徒の立場では、ディフォルトを起こしても、金利を支払うことなく支払を引き延ばすことが可能という理由でイスラム金融を選択することだってありうる。

しかし、こうした不公平は回避すべきだというのが、Mohamad判事の意見でした。(なお、マレーシア中央銀行のシャリーア・アドバイザリー・カウンセルは、イスラム銀行がかかる金利の支払を命じる判決を取得し、実損害の限度でこれを受領することは可能であるという見解を出しているそうです。)

(筆者の感想)

Mohamad判事が挙げる例は極端なものでしょうが、これは異教徒が4割近くいるマレーシアにおいて、宗教上の理由だけで金利が支払われたり、支払われなかったりする、ということから生じる不公平感がメッセージとして込められていると感じました。ちなみにMohamad判事は非イスラム教徒だそうです。

クアラルンプールの空港に降り立ったときに直ぐに感じたことですが、街の中には一見明らかにイスラム教徒と思われる人とそうでない人がおり、民族的にもマレー系、中華系、インド系など複雑な社会です。

セミナーの昼食時に隣に座ったマレーシア中央銀行の方も「この国はいろいろな人がいて調整が難しい。」とこぼしていましたが、Mohamad判事がいう異教徒によるイスラム金融の悪用の虞は、民族及び宗教の多様性から来るマレーシア社会の苦悩のようなものを感じました。

5. イスラム金融ADRが機能していない現実

日本でも本年の法改正により金融ADRが導入されることになりましたが、マレーシアでは2004年にイスラム金融に関する紛争を処理するための仲裁制度が導入されています。ところが、Mohamad判事の話ではまだ1件も仲裁機関に事件が持ち込まれていないとのことです。

Mohamad判事が考えるところでは、まずイスラム保険(takaful)の事件については、

  • 保険金請求事件においては、シャリーア(イスラム法)が争点になることは殆ど無いので、イスラム金融に関する紛争の解決を目的とした仲裁機関に事件を持ち込む実益がない。
  • 保険金請求は保険会社との話し合いを通じて行われるので、仲裁機関に持ち込むことはない。
  • 請求額が高額の場合、保険会社は簡単には話し合いに応じず、従って保険金請求者の弁護士は、仲裁よりも強力な裁判所の手続きに訴えてから、和解に持ち込もうとする。

といったことが考えられるとのことです。

次にイスラム銀行に関する事件が仲裁手続きに持ち込まれない理由としては、

  • ディフォルト状態の債務者としては、あらゆる手管を使い、手続きを引き延ばすことに関心があり(利息の禁止の関係でイスラム金融では遅延利息は発生しない。)、仲裁により迅速に解決するインセンティブが無い。
  • 金融機関が司法手続きを利用するのはあらゆる手段が尽きて債務者に対して強制執行をかける場合であるが、債務者の財産に対する執行命令は控訴院でないと出せないし、裁判所の判決があれば色々な方法で取立てができるので、裁判所の手続きの方が債権者にとって適切である。
  • 仲裁人はシャリーア(イスラム法)の専門家ではなく、仲裁手続きでもシャリーア(イスラム法)が争点となった場合にはシャリーア・アドバイザリー・カウンセルにreferする必要があるが、それでは裁判所に訴えた場合と同じであり、仲裁によるメリットが無い。

といった点が考えられるとのことです。

(筆者の感想)

マレーシアの仲裁制度を調べたことはありませんが、どうやら「ミニ裁判所」のようなもので、制度利用者において仲裁を利用するメリットを感じさせないのではないか、という印象を持ちました。

我が国の金融ADRはどうでしょうか?運用によっては「ミニ裁判所」のようなものになるようなことがあると機能不全に陥ってしまうのでしょうか?

6. 金融調停委員会(Financial Mediation Bureau)について

仲裁手続きの運用が上手く行っていないのに対して、マレーシア中央銀行が設立した金融調停委員会のほうは、そこそこの数の事件が持ち込まれているとのことです。こちらの方は、行政機関として設置されたものであり、イスラム保険会社を含む金融機関のみを拘束する手続きであり、少額の事件を対象とするものとのこと。

保険金請求事件は対象とならないとのことですので、どのような事件が持ち込まれているのか良くわかりませんでした。しかしながら、少額かつ単純な事件が持ち込まれ、弁護士による代理は禁止され、シャリーア(イスラム法)が争点となるような事件は無いとのことです。

興味を引いたのは、イスラム保険(takaful)の事件の場合、両当事者がイスラム教徒である場合は、話し合いがスムーズに進むが、非イスラム教徒が片方の当事者になった場合は、上手く行かないとのことでした。

(筆者の感想)

少額かつ単純な事件であって、信仰する宗教が同じで当事者間に共通の基盤があるときには、調停は上手く行くということでしょうか…。我が国は単一民族国家であるものの、イスラム教徒のような運命共同体意識が薄くなってしまった社会ですから、そのまま我が国の裁判外紛争解決制度の運用に当てはめるわけには行かないでしょうが、何か参考になりそうな話です。

7. まとめ

Mohamad判事のプレゼンは紛争処理を中心としたマレーシアにおけるイスラム金融の運営の実態が良くわかるものでした。今後日本の金融機関/保険会社がマレーシアにおいてイスラム金融ビジネスを拡大していく際には参考になる話だと思いましたので、詳しく紹介をさせて頂きました。

以上

2009年11月 5日 (木)

イスラム金融(37)IFSBのイスラム金融セミナーへ行ってきました(その4)(倒産と資産保全)

1. セッション3のテーマ

初日の最後のセッションであるセッション3は"Islamic Financial Services Industry Insolvency and Asset Recovery Framework-Gaps and Challenges"と題する講演で、実は筆者としてはもっとも関心が高いトピックでした。

セッション3のスピーカーは3人で、このうち、BMB Islamic(http://www.bmbislamic.com/language_english/about_us/index.htm)のCEOであるHumayron Dar氏による「イスラム金融における倒産と資産保全のフレームワーク」(”Insolvency and Asset Recovery Framework in Islamic Finance”)と題する講演は筆者の関心にストライクで応えたものでした。他の2人のスピーカーであるEdward Murray氏(Allen & Overy法律事務所)の話はISDAと英国法の動向を中心としたデリバティブ関係の話であり、Hanim Hamzah氏(Roosdiono & Partners法律事務所)の話はインドネシアにおけるイスラム金融と執行手続きに関する話でしたので、セッション3の表題とは若干ずれた内容ではないかと思います。(もっとも、講演の後でMurray氏と一緒に食事をしたところ、デリバティブ関係の仕事で実は接点があったことがわかり、大いに盛り上がりました。)そこで、この記事ではDar氏の講演を中心にセッション3のご報告を致したいと思います。

2. イスラム金融は信用リスクに脆弱ではないかという疑問

Dar氏の講演の報告に入る前に、何故筆者がこのテーマについて関心を持っているのかを述べます。

一つ目は、世界金融危機の下で、スクークのディフォルト事例が現れたり、ディフォルト宣言に至らなくてもリスケを検討中の案件があると聞いています。また、スクークの歴史は浅く2000年以降に急速に拡大した市場ですので、今後償還期を迎えるものが数多くあり、石油価格の動向如何によっては、さらにディフォルト事例が増えると考えられます。

二つ目は、いうまでもなく、イスラム金融とは利息の禁止を始めとするイスラム教の教義に抵触しないための金融手法として考案されたものですが、そのうちムダーラバ及びムシャーラカと呼ばれる組合型のスキームは、信用リスク(倒産リスク)に対して脆弱(vulnerable)ではないかという疑問を持っています。このことは筆者のブログの過去の記事において触れたことがありますし(ムダーラバにつき、http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/1_ea82.html)、現にディフォルトが発生しているThe Investment Darのスクーク(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/33-aaa6.html)は、ムシャーラカをスキームの基本としています。イスラム金融はいわゆるストレスに弱いのではないかという疑問があるわけです。

3. 世界金融危機と"plug & play"であったイスラム金融のプラクティス

Dar氏の講演のテーマであるイスラム金融と倒産及び資産保全の問題は、"legal"な問題("legal"とは、宗教法であるイスラム法に対比される世俗法という意味。例えば破産法は宗教的戒律に基づくものではない。)ではあるが、シャリーア(イスラム法)とも関係が深く、同氏はその専門分野であるシャリーアに関する問題を中心に扱うということで講演を始めました。

同氏によれば、イスラム金融の商品として世に出ているものは、従来から存在する欧米の金融機関によって開発された金融商品を、イスラム教の教義に適合するように改変したものにすぎず、イスラム金融独自の商品の開発をしてこなかったというプラクティスにこの問題の根があるとのことです。このようなプラクティスについて、同氏は"plug & play"という言葉を使って説明をされていました。

4. イスラム銀行の倒産と預金者の保護

4.1 ムダーラバ預金の仕組み

Dar氏が最初に出した設例はムダーラバ構成によるイスラム銀行の預金です。ムダーラバはイスラム流匿名組合ともいうべきもので、預金の場合には、預金者が出資者となって銀行に対して金銭の出資をし、銀行は出資された資金を運用するというものです。イスラム金融の用語では、匿名組合員にあたる出資者はRabbul-mal、匿名組合の営業者にあたる者はMudaribと呼ばれています。

同氏によれば、シャリーア(イスラム法)の見地では、銀行とムダーラバ資産(Mudaraba pool)は別々の主体であり、Mudaribである銀行の財務状態はムダーラバのそれとは別個のものとして取り扱われるべきであるとのことです。

この発言の趣旨ですが、(i) 筆者の知る限り、制定法の定めがある場合は別として、ムダーラバが会社と同様に独自の法人格を有しているとまでは通常考えられていないようですし、(ii) ムダーラバ資産は出資者(Rabbul-mal)に帰属し、Mudaribはムダーラバ資産を出資者のために管理するという趣旨の文献も読んだことがありますので、同氏の発言はムダーラバ資産に独自の法人格を認めるというわけではなく、銀行はムダーラバ資産を自己の固有財産とは分別して管理しなければならないという程度の意味と解釈すべきだと思います。

付言しますと、この出資財産の帰属の点がムダーラバと我が国の匿名組合と大きく異なる点であり、我が国の匿名組合の場合は匿名組合員が出資した資産は、営業者に帰属する旨の明確な規定があります(商法536条第1項)。

4.2 預金者/投資家保護のための3つの条件

このようなムダーラバ構成の預金に関して、Dar氏は次のような問題提起をされています。

(問題1) 銀行が支払不能になったが、ムダーラバ資産の財務状態は健全である場合、どうなるか?

(問題2) 銀行の財務状態は健全であるが、ムダーラバ資産は支払不能の場合、どうなるか?

これに対するDar氏の見解は以下の通りです。

① イスラム銀行の預金は、法的な(legal)独立の法人格があるとは扱われておらず、受け入れた預金はイスラム銀行の銀行業務全般に使われ、預金者が受け取る利益(利息に相当)を平準化したり、銀行によるリスクを軽減するための留保金を除き、一定の利益分配のフォーミュラに従い、預金者に対してリターン(利息に相当)が支払われる。(これは"Unrestricted Mudarabah"と呼ばれるものですが、説明は省略します。)

② そして、規制当局の保護がなければ、イスラム銀行の倒産の場合、イスラム銀行の預金者は他の無担保債権者と同じ順位(pari passu)となる

③ 何故なら、以下のシャリーア(イスラム法)の次の3つの基本的な要請が無視されているからである(「3つの条件」)。

  • ムダーラバ資産の特定(identification of Mudaraba assets)
  • ムダーラバ資産の分離(segregation of Mudaraba assets)
  • 信託宣言(declaration of trust)=管理者である銀行はムダーラバ資産を預金者のために管理すること

④ ムダーラバ以外でも、ムシャーラカ(イスラム流パートナーシップのこと→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.html)又はワカラ(Wakala;イスラム流代理のこと)の構成による投資において、投資家が自己の資産を回収することができるのは、上記の条件が整っている場合に限られる。

(筆者コメント)

我が国の匿名組合においても、営業者が倒産した場合、匿名組合員は一般の無担保債権者の地位に立つので、匿名組合の営業者の破産とあまり結論は変わらないと思われます。

また、「信託宣言」という言葉を使っていますが、イスラム法には英米法的な信託の概念はありません。(イスラム圏の国の中で制定法により英米法的な信託制度を輸入している国がありますが、これはシャリーア(イスラム法)の制度とは扱われていません。)従って、英米法的な信託の制度がないjurisdictionにおいてもあてはまるのかどうかは疑問があると思いました。

4.3. 実物取引型のイスラム金融の手法

Dar氏は続いてムラーバハ(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.html)、イジャーラ(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.html)、サラム(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/20_ad49.html)においても、投資家の権利の性質は債権(debt)であり、担保による保護が無い限り、債務者の倒産の場合には他の一般の無担保債権者と同じ地位に立つと述べておられます。従って、同氏によれば、上記の実物取引型のイスラム金融の手法においても、銀行は投資家から集めた資金を自己のバランス・シートのために用いるべきではないと述べられています。

(筆者コメント)

組合型のイスラム金融と同様に投資家の地位は一般の債権者と同等という点は当然という気はします。少し気になるのは、資金調達の目的には自己の事業の運転資金という場合も当然あるはずであり、そのような場合には、実際上、投資家から集めた資金を分別管理するわけには行かないのではないか?という疑問があります。従って、「3つの条件」とは興味のある指摘であり、預金者保護という点では理解できますが、あらゆる場面でそのようにいえるのかについては疑問を感じました。

5. スクーク(イスラム債)における資産の保全

5.1. 組合型ないし代理型のスクーク(イスラム債)への適用

続いて、Dar氏はムシャーラカ(イスラム流パートナーシップ)、ムダーラバ(イスラム流匿名組合)及びワカラ(イスラム流代理)をベースとしたスクーク(イスラム債)においては、上記の3つの条件が遵守されたときに限り、投資家はスクークの裏づけ資産へのリコース(遡及)ができるが、過去の実務では、多くのスクーク(イスラム債)のストラクチャリングにおいて、上記の3つの条件が無視されているとのことです。

(筆者の補足とコメント)

一般にスクーク(sukuk; イスラム債)は、一定の資産を裏づけとして発行されるものであり、スクーク(イスラム債)の証券は裏付け資産に対する持分的な地位を表章しているとされています。従って、投資家保護の見地からは、アセット・ベース・ファイナンスにおいては、裏付け資産について上記の3つの条件を適用するというのは、納得の行く話であります。スクークの一般については、過去のブログをご参考になさってください。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/3_b0f9.html

実は、以前このブログで紹介をしたThe Investment Darのスクークは、ムシャーラカをベースとしたストラクチャリングであり、この事案では、スクーク(イスラム債)の裏付け資産は実質的な資金需要者であるThe Investment Darが管理をする仕組みになっていますが、裏付け資産はオリジネーターであるThe Investment Darの一般財産とは分別管理されていたものかどうかが、疑わしいようです。(ちなみに、このスクークの目論見書においては、「…信託受託者及び証券所持人は信託財産の売却その他の処分について権限を有さず…」という文言があり、オリジネーターの自由な裁量による管理を容認するような規定が存在します。)(なお、本件スクークの目論見書に関する情報を提供して頂きました「スクーク研究者」さんには、御礼を申し上げます。有難う御座いました。)

このように考えますと、以前このブログでご紹介をしたThe Investment Darのスクーク(URL→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/33-aaa6.html)においても、発行体の破産の場合投資家は無担保一般債権者と同じ地位に立つということになろうかと思われます。

5.2. イジャーラ(イスラム流リース)をベースとしたスクーク(イスラム債)の場合

続いて、スクーク(イスラム債)の主流となっているイジャーラをベースとしたスクーク(イスラム債)については、上記の3つの条件が無視されたとしても、資産の保全は比較的容易とのことです。

Dar氏によれば、スクーク(イスラム債)の発行手取金をもってオリジネーターから裏付け資産を購入し、オリジネーターに対してリース(イジャーラ)し、満期償還の際にオリジネーターが当該裏付け資産を買い取るスキームを念頭において、証券所持人らがオリジネーター以外の第三者に対して、当該裏付け資産を売却しない旨の約束を行うことがあり、そのような場合には裏付け資産が保全されており、オリジネーター倒産の場合には、当該裏付け資産を売却して返済原資に宛てることができるとのことです。

上記のスクークの仕組みが分かりにくいと仰る方も居られると思いますので、その例として、筆者が以前にまとめたQatar Global Sukuk Q.S.Cのスキームのサマリーを添付しました。→「summary_of_qatar_global_sukuk_qsc.doc」をダウンロード

もっとも、裏付け資産をオリジネーター以外の第三者へ処分しないという約束は、シャリーア(イスラム法)の原理に反する可能性があるとのことでした。何故シャリーア上問題があるかについては、過去のブログ記事をご参照下さい。→特約条項について; http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/19_1e15.html

(筆者コメント その1 裏付け資産の所有権の確保)

Dar氏の話では、発行体が裏付け資産の所有権を有するストラクチャーを念頭においていましたが、そうでないケースはどのように考えるべきか、という疑問はあります。

例えば、サウジ・アラビアのコングロマリットの一つであるSaadが実質的な資金需要者であったGolden Belt 1 Sukuk Company B.S.C.のスクークがディフォルトになりそうだという話が報道されたことがあります。この件は、発行体が原レッサーから不動産を賃借し、それを転リースをしたが、Saadグループが有する銀行口座が凍結されてしまったために、転リース料の支払の目途が立たず、11月の利払いができるかどうか難しくなってしまったというものです。そして、発行体は賃借人に過ぎず、裏付け資産の所有権を保有していないので、裏付け資産の処分による債権回収ができず、しかも原リース契約が解除されるなどして終了してしまうと、転リースの転貸人としての義務の履行が不能になってしまう、という問題があります

発行時は一応シャリーア適格と考えられていたようですが、Dar氏のような考え方を前提とするとどうなるのでしょうか?という疑問があります。

(筆者コメント その2 True Sale(真正売買)との関係

二つ目として、Dar氏が例としてあげたセール・リース・バックはTrue Sale(真正売買)であるかどうか疑問があり、例えば、The East Cameron Gas Companyのスクークにおいては、オリジネーターの倒産からみでTrue Sale(真正売買)が争点となっています。

従って、Dar氏が述べた点はあくまでもシャリーア(イスラム法)に関する限度のことであり、実際の問題の処理には、宗教法であるシャリーアではない世俗法についての検討も必要なのではないか、と考えております。

6. 結論

Dar氏は以下の通り結論を述べていました。

① Investment managerと資産とを明確に分離した投資代理人概念によってイスラム金融を行うことの必要性

② 資産の特定、資産の分離及び資産管理者の忠実義務は厳格な遵守

③ 過去の事例ではこの点がおろそかになっていたものがあるが、将来においてはきちんと守るべきであること

7. 筆者の疑問-対抗要件の具備

Dar氏のプレゼンでは、①資産の特定、②資産の分離及び③資産管理者の忠実義務の重要性が繰り返し述べられていたわけですが、さらにスクークの発行やプロジェクトファイナンスのようにアセット・ベース・ファイナンスの場合には、上記の3つに加えて、信託受託者やSPC(プロジェクト会社)への裏付け資産の所有権の移転につき、対抗要件を具備する必要もあるのではないか、という疑問を持ちました。

そこで、筆者はフロアからの質問をしてみたのですが、Dar氏によれば、対抗要件具備が不備であったために問題が起こっている事案があることは認めるし、登記/登録まで行うといった裏付け資産の所有権の移転について厳格な考え方をとることは理想的ではあるが、legal titleを移転することが難しい法域(jurisdiction)があり、さらには実際に所有権の移転についてシャリーア(イスラム法)学者も厳格な考え方をとっているわけではないとの回答でした。どうやらシャリーア(イスラム法)又はDar氏出身のjurisdictionにおいては、登記/登録について、日本法的な対抗要件の考え方とはニュアンスが違う発想がとられているように感じたのですが、ともかく、シャリーア(イスラム法)の下では、登記/登録といった対抗要件の具備は要求されていないというのが結論でした。

なお、セッション5のスピーカーであるMcMillen弁護士とは休憩時間に話をする機会があったのですが、(雑談ベースでの指摘に過ぎませんが)同弁護士によれば、中近東地域に共通する問題として対抗要件具備の制度が整備されておらず、既存のスクークにおいて裏付け資産の所有権の移転につき対抗要件の具備が不備なものが沢山あるという問題があるとのことでした。(もっとも、「対抗要件を具備をしていない事例が沢山ある」のかどうかについては、中近東から来たセミナーの参加者を昼食中に捕まえて聞いたところ、「そんなはずはない」と言っており、この点はさらに調査が必要であると思います。)

セッション3のコーディネーターであるアジア開発銀行の法務部長いわく、「イスラム金融の組成を行うときには、internationalな法律に基づき検討がなされるが、ひとたびディフォルトになると資産が所在するlocalな法律に基づき処理される。」とのことでしたが、対抗要件の具備はまさに資産が所在するjurisdictionの問題です。

ディフォルトになったり、ディフォルトになりそうな場合の対策を考えると、避けて通れないのがイスラム法以外のlocalな法律の検討ですが、これまでの我が国のイスラム金融の議論においては、現地における対抗要件具備、担保法、破産法までは十分に行き届いた議論がなされていたのかどうか、疑問があります。今後の課題でしょうね。

以上

[追記:イスラム諸国の担保法については「イスラム金融(7)担保→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/7_1478.html、イスラム諸国の破産法については、「イスラム金融(16)→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/16_8f27.htmlをご参照下さい。いずれは内容を更新したいと考えておりますが、とりあえずご参考までに…(2009年11月12日)]

2009年11月 3日 (火)

イスラム金融(36)IFSBのイスラム金融セミナーへ行ってきました(その3)(マレーシアのイスラム金融商品の規制)

前回に引き続いて、IFSBのイスラム金融セミナーの出席の報告の続きをさせて頂きます。

セッション2は「イスラム仕組み金融商品のシャリーア及び法律上の問題点」("Shari'ah and Legal Issues in Islamic Structured Products")というテーマによるマレーシア証券委員会のNik Ramlah Mahmood氏の講演でした。

内容的にはマレーシアにおけるイスラム金融の規制を扱っておりますので、マレーシア以外の地域に関心のある方には参考にならないかも知れませんが、国の規制全体の中でイスラム金融をどのように取り扱うかという観点で考えると、それなりに面白い内容ではないかと思います。

1. 規制の基本的な考え方

1.1 イスラム資本市場商品の規制に関しては、その内容の審査ではなく、ディスクロージャーの要求するというmarket-basedなアプローチをとっていること

1.2 イスラム資本市場商品もそれ以外の資本市場商品(eg 社債や株式等)と同じ資本市場の規制に服することを前提としつつ、それに付加してイスラム資本市場商品特有の性質による規制を上乗せしていること

と要約しましたが、要するにイスラム資本市場商品を既存の規制の枠の中に取り込んで規制するということで、イスラム教徒以外の人も大勢いるマレーシアの国情を反映した規制のように思われました。

2. イスラム資本市場商品の規制

マレーシアの場合は国を挙げて積極的にイスラム金融を育成しようという姿勢が資本市場商品の規制にも現れています。例えば、各種のガイドラインの発行を行い、イスラム金融商品にかかる税制においてイスラム金融以外の金融商品との間で不均衡が生じないような措置をとっていることが挙げられますし、証券委員会自身がシャリーア・ボード(シャリア委員会)を設置しているといった点です。

1でも述べた既存の資本市場規制の上乗せの例としては、

  • 既存の社債の規制に加えて、ムシャラーカ、ムダラーバといったイスラム金融商品特有の仕組みを開示することを要求すること
  • Unit Trustについては既存の規制に加えて、当該ファンドがイスラム法(シャリーア)に合致していることをシャリーア・アドバイザーに認証させていること
  • REITについては、テナントや賃料収入がイスラム法(シャリーア)に反しないことを要求すること

などが挙げられます。

マレーシアの場合法律上"structured product"(仕組み商品)の定義があり、資本市場におけるイスラム金融商品を全て包摂するようになっています。

3. 情報の開示

イスラム資本市場商品についても、リスク要因の開示とか顧客に対して販売する際のリスクの説明と開示(特に個人投資家を相手とする場合には高い水準の注意義務が課される)などは目新しいことではなかったのですが、SPVである"Foreign-related corporation"がイスラム資本市場商品を発行する場合には、証券委員会に対する承認の申請において、外国親会社や関連会社の情報を開示する必要があるという点は少し関心を持ちました。

これはセミナーの終了後にクアラルンプールにおいてイスラム金融を手掛けている法律事務所を訪問した際に聞いた話ですが、マレーシアのおけるスクークは親会社であるスポンサーがサポートしているものばかりで、いわゆるノン・リコース・ベースで発行されることは殆ど無いとのことでした。「仕組み金融商品」という言葉を聞くと直ぐにノン・リコース・ベースのものを連想してしまうのですが、実態はそうではなく、従ってSPVの親会社に関する情報の開示が必要とされるのかなぁ、と思いました。

なお、資本市場商品に関するマレーシア証券委員会の承認と書きましたが、現在では「みなし承認」という制度があり、一定の要件を備えた発行体の場合には、委員会に対する申請の提出をすれば、承認されたと看做されるとのことで、それほど困難な手続きではないようです。詳しくは、URL→http://www.sc.com.my/main.asp?pageid=239&menuid=341&newsid=&linkid=&type=をご参照下さい。

4. シャリーア・アドバイザーの規制

他の法域について調査をしたことはありませんが、マレーシアの場合にはシャリーア・アドバイザーについて証券委員会の承認を得ることになっており、その基準は、①破産者でないこと、②刑事手続きで有罪とされたことがないこと、③good reputation and characterであること、④イスラム法に関する知識と経験があり、特にイスラム金融において3年の経験があることといった内容だそうです。

5. プログラム発行が多いこと

コーヒーブレークの時間にセミナー参加者である地元の弁護士を捕まえて聞いてみたのですが、マレーシアではイスラム資本市場商品のプログラム発行が多いとのこと。これはシャリーア・アドバイザーによるイスラム法に適合する旨(シャリーア適格)の意見を貰うのに手間がかかるので、一度作った仕組み商品のプログラムを何度も使いまわしをしているとのことでした。

セミナーのレジュメには証券委員会の統計資料が含まれており、各年ごとに証券委員会が承認した仕組み商品の額が記載されていたのですが、スピーカーによればその承認が行われた年に全額発行されたとは限らず、翌年以降に発行されている場合が多く、統計資料を見る場合には注意が必要だとのことでした。

以上

2009年11月 2日 (月)

イスラム金融(35)IFSBのイスラム金融セミナーへ行ってきました(その2)(シャリーア・ボード(シャリア委員会))

前回に引き続きIFSBのイスラム金融セミナーの報告を致します。

1. 1日目オープニング・セッション

初日の最初のセッションは"Opening and Keynote Session"で、IFSB(Islamic Finance Service Board)のSecretary General(事務総長)のRifaat Ahmed Abdel Karim氏、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)総裁のZeti Akhtar Aziz氏及び英国のWilliam Blair判事の話がありました。

IFSBの事務局長によれば、金融危機の影響がイスラム金融機関にも及んだことから、イスラム金融における色々なリスクが関心が深まっているとのことであり、マレーシア中央銀行総裁のスピーチの中では、シャリア違反への対応のような西欧的金融に無い、イスラム金融固有のリスクへの対応が説かれていました。また、Blair判事(ブレア元首相の兄弟とのこと)も、金融危機を契機として情報開示の重要性と金融機関及び金融商品の"integrity"(「廉潔さ」とでも訳すべきでしょうか)の必要性が強調されるようになったとのことで、冒頭のオープニングからして「一歩退いた」トーンでのセミナーになりました。

2. 1日目セッション1…シャリーア・ボードの義務と責任

"Opening and Keynote Session"の次はいよいよ本題で、Session 1のテーマは「法令及び規制からみたシャリアボードの義務と責任」("Duties and Responsibilities of Shari'ah Board from a Legal and Regulatory Perspective")でした。このセッションのスピーカーは、①IFSBのSenior Project ManagerのMadzian M. Hussain氏、②International Shari'ah Research Academy for Islamic Financeの助教授のMohamed Akram Laldin氏及び③Khazanah Nasional Berhad(マレーシアの政府系ファンド)のディレクターのHissam Kamal氏でした。

もっとも、Hussain氏とKamal氏は、当初予定のスピーカーであったIslamic Corporation for the Insurance of Investment and Export Credit (イスラム開発銀行の系列の信用保証機関)の法務部長のAdil Awad Babiker氏及びFajl Capital(ドバイを本拠地とする投資会社)のRafe Haneef氏の代講であり、当初予定のスピーカーが用意したレジュメの棒読みのような感じでした。

とは言うものの、レジュメは、シャリーア・ボード(Shari'ah Board;シャリーア委員会)に関する論点を要領よく纏めていたものでしたので、その要点を以下ご紹介いたします。(なお、レジュメについては、パスワードを持っている人だけがIFSBのHPよりダウンロードできることになっていますので、これをそのまま貼ることは致しません。不悪)

2.1 シャリーア・ボードの意義

イスラーム金融について詳しくない方にもわかるようにご説明をしますと、シャリーア・ボードとは、イスラム金融機関が設置するイスラム法学者から構成される社内の委員会であり、取締役会などのマネージメントとは独立している機関です。その役割は、イスラム金融機関の事業と取引全般についてイスラム法(シャリーア)の遵守をチェックするものであり、これには金融商品の開発とか社内手続きの監督やスタッフの教育プログラムの監督、さらにはシャリーア遵守に関する報告書の作成なども行います。

AAOIFI(Accounting and Auditing Organization for Islamic Financial Institutions)(URL→http://www.aaoifi.com/)のイスラム金融機関に関するガバナンス基準によれば、イスラム金融機関は株主総会において選任されたシャリーア監督員会を設置することが必要とされております。また、イスラム圏の国では、法律によってイスラム金融機関がシャリーア・ボードの設置を義務付けているところやイスラム金融機関の定款において設置を定めているものもあります。マレーシアでは、定款の定めによりシャリーア・ボードを設置していることがイスラム銀行の免許の条件とされています。

このようにシャリーア・ボードは個別のイスラム金融機関に設置されていますが、さらに業界全体の横断的なシャリーア・ボードもあります。そのような例としては、International Council of FIqh AcademyやAAOIFIのシャリーア・ボードなどのように業界団体的な組織が設置したものやマレーシア中央銀行やマレーシアの証券委員会が持っているSyariah Advisory Councilのように国の機関が設置したものもあります。これらのシャリーア・ボードはイスラム法の解釈の統一に向けて色々な基準を公表することもあります。【追記:(2009年11月6日)マレーシア中央銀行が設置したシャリーア・アドバイザリー・カウンセルについてはSession 4の報告の際に詳説致します。】

シャリーア・ボードのメンバーは2,3年の任期で株主総会によって選任され、その報酬は定額制を取っているようです。監督機関としての独立性を確保するためには、業績連動報酬は適当ではない、という考え方によるものではないかと思います。

2.2 シャリーア・ボードの義務と責任

シャリーア・ボードの義務と責任がセッション1のトピックですが、3人のスピーカーのプレゼン内容がかなり重複していましたので、以下の通り一つに纏めてみました。

2.2.1 (問題の所在と論点)

【問題1】  シャリーア・ボードが誤った決議をし、それに従ったイスラム金融機関が損害を蒙った場合、イスラム金融機関はシャリーア・ボードに対して損害賠償を請求できるか?

【問題2】  あるシャリーア・ボードがイスラム法に合致すると判断した金融商品について、別のシャリーア・ボードがイスラム法に反すると判断した場合、投資家は前者のシャリーア・ボードに対して損害賠償の請求ができるか?

【問題3】 開発時にはイスラム法に合致するとシャリーア・ボードの判断を受けていた金融商品/取引が、後に、イスラム法に反すると判断された場合、その金融商品/取引を当初から無かったことのようにする遡及的な原状回復措置をとるべきか?また、投資家はそのような金融商品を継続保有すべきではなく処分しなくてはならないか?

2.2.2 (シャリーア・ボードの専門家責任)

① 専門家としてのイスラム法学者は、イスラム金融機関に対してその職業上の地位に相応する水準のスキルが要求され、これに相応する注意義務(duty of care)を負う。

② ところで、イスラム金融機関とシャリーア・ボードとの関係は契約関係であり、シャリーア・ボードのメンバーであるイスラム法学者が契約条件に反する行為を行えば、契約不履行責任を負う。

③ 従って、もしイスラム法学者がかかる注意義務を尽くしていなかった場合には、契約責任又不法行為責任を負う。

④ こうした注意義務を負う相手方は、イスラム金融機関に限らず、イスラム金融機関の株主、顧客を含むものである。

⑤ このような専門家責任(professional liability)は、弁護士、会計士、医師がそのクライアントや患者に対して負っている責任と同様の性質である。

⑥ しかしながら、専門家としての過失を問うためには裁判所においてこれを立証する必要がある。他のイスラム法学者が異なる意見であったとしても、独立の地位に基づき分析による演繹的判断をした場合(イスラム法ではこれを「イジュティハード」と呼んでいます。)、直ちには判断ミスによる責任を負うものではない。

⑦ シャリーア・ボードはイスラム金融機関に対して助言をする立場に過ぎないので、イスラム金融機関が意図的にシャリーア・ボードの意見に反する行為を行った場合には免責される。シャリーア遵守を確保する究極的な責任はイスラム金融機関の経営者にある。

上記の通りマレーシアにおいてはシャリーア・ボードを構成するイスラム法学者の責任は弁護士、会計士、医師などの専門家責任と同様に考えているのですが、例えば、サウジ・アラビアとかパキスタンのように、イスラム法(シャリーア)が憲法よりも上位にある法域ではどうなのかなぁ?という疑問は少し持っています。

2.2.3 (シャリーア・ボードの注意義務の基準)

そこで、シャリーア・ボードの注意義務の水準は何かという問題になりますが、スピーカーによれば、

イスラム法学者は、その注意義務を尽くしているとされるためには、合理的に慎重な職業的アドバイザー(reasonably prudent professional advisor)が同様の地位において期待される注意義務の水準にしたがっている必要がある。(日本法でいえば、善良なる管理者としての注意義務の水準はその職業、資格などによって異なってくるという議論がありますが、それとよく似ていますね。)

そのためには、

① イスラム法学者はその承認をする金融商品及びサービスの性質と仕組みを完全に理解する必要がある。、

② 法的書類は、イスラム法学者が承認する金融商品及びサービスの性質と仕組みを正確に反映していること

③ 適当と認められる場合には、自らが承認した金融商品及びサービスのシャリーア遵守状況を定期的にモニターすること

である、とのことです。

2.3.4 シャリア・ボードの問題点

イスラム法学者の不足、時間がかかること、現代金融実務の理解の欠如といったものは、既に邦語文献でも書かれていることですので詳細は省略しますが、印象に残ったのは、これに加えて、これまでのイスラム金融商品は、欧米の金融機関が開発したconventionalな金融商品を模倣し変容を加えたものであって、イスラム法学者はそれにイスラム法に適合する旨のお墨付きを与えていたに過ぎず、イスラム独自のサービスや商品の開発が必要であるとのことでした。

また、イスラム法学者の間の意見の不一致も問題となり、例えばtawarruqというタイプの取引があるのですが(この内容まで触れていると物凄く長い記事になるので省略します。関心のある方は、例えば→http://finance.practicallaw.com/5-367-4016をご参照下さい。)かつてはFiqh Academyでシャリーア適格と判断されていたものが、2009年の決定では"organized" tawarruqはシャリーア不適格とされています。しかしながら、このtawarruqは20年以上前から行われていたイスラム金融の手法であり、何故今の時点でこのような決定がなされたのか、適法としたイスラム法学者は注意義務を尽くしていたと言えるのかといった問題があるとのことです。

さらに、以前このブログでも紹介をしたことがありますが、2008年にはAAOIFIが既存のスクーク(イスラム債)のうち85パーセントがイスラム法(シャリーア)違反であるという声明を出したことがあります(URL→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/23aaoifi-ebfc.html)。ところが、この声明においては事後措置として問題のあるスクーク(イスラム債)がどのように扱われるべきかは何も書かれておりません。しかも、問題があるとされたものと同じ性質を有するスクーク(イスラム債)はかなり前から発行され流通されていたもので、それを放置していたこと自体が問題ではないかという指摘もありました。

これは上記の【問題3】に関することで、アジア開発銀行の法務部長さんが質問をしていたのですが、スピーカーは、同じ商品/取引について一度イスラム法学者の意見を徴求している以上、類似商品/取引について別のイスラム法学者がイスラム法に反する旨の意見を述べたとしても、それは別個の取引に関するものであって、当初の取引には影響がないはずであるという趣旨の回答をしていました。

しかしながら、筆者が考えるに、例えば、ディフォルトになったスクーク(イスラム債)のリスケの際にもリスケのスキーム自体についてイスラム法に適合するかイスラム法学者の意見を仰ぐ必要があるわけですが、その際に発行されたスクーク(イスラム債)の要項がイスラム法に反するとされることが無いのでしょうか?或いは資金調達者が資金提供者に対してその債務を履行しないために、イスラム金融による契約書に基づき裁判所へ出訴した場合において、裁判所が採用したイスラム法の鑑定証人が、当該契約書自体がイスラム法に反するという意見を述べることも考えられます。従って、同じ取引についてイスラム法学者から2回以上意見を徴求する可能性は否定できず、類似の取引に関する意見であっても一度出された過去の取引には影響がないという議論にはにわかには同調できないように思いました。

3. 筆者の感想

このセミナーの参加者の多くは銀行家や弁護士であり、スピーカーの発表後のフロアから沢山の質問や意見が寄せられましたが、そのやり取りの雰囲気でわかってきたことは、どうやら、イスラーム金融の携わる実務家の間では、イスラム法学者にはかなり不満を持っているのではないか、ということです。とりわけイスラム法学者によって意見が分かれるという点について異口同音という感じであり、中にはシャリーア裁判所に決めさせるべきだといった発言もありました。

イスラム法学者はある金融商品/取引や金融機関のプラクティスがイスラーム法に合致するかどうかの判断をし、意見を提供するに過ぎませんから、それがイスラーム法に反していることが分かったときにどのような後始末をするのかは、イスラム金融機関、株主、顧客、投資家それぞれの問題だと考えられているのかも知れません。

仮にそのような見方が正しいとすると、イスラーム法とは万人に適用され万人が従う義務のある法規範とは性格が異なるものだということにならないでしょうか?

以前このブログでイスラム法には先例拘束の原理がないということを書いたことがありますが(URL→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/fatwa_d981.html)、先例拘束の原理が無い以上、イスラム法学者の間での意見の統一が進まず、従って、会場の参加者たちが口々に言っていたイスラム法学者の意見の相違もやむを得ないということになるのでしょうか…。確かに宗教とは個人の信仰の問題であって、「鰯の頭も信心から」という譬えもあるように、先例で拘束するのは宗教の本質に反するわけでしょうが、規格化・平準化が必要な金融取引の世界にそれを及ぼすと不都合なことが出てくるということなんだろうなぁ…と考えております。

以上

« 2009年10月 | トップページ | 2010年4月 »