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2009年1月

2009年1月 7日 (水)

イスラム金融(32)銀行法施行規則の改正(7)

前回までのブログでは、複数回にわたり、イスラム金融については、「金融関連業務」(銀行法16条の2第2項第2号)として位置づけられ、2008年12月12日から施行されている銀行法施行規則第17条の3第2項に第2号の2が追加されたこと(enforcement_regulation_of_banking_law2008_amendment_re_islamic_finance.doc」をダウンロード) 並びに新たに追加された第2号の2の文言のうち、「金銭の貸付けと同視すべきもの」及び「宗教上の規律について専門的な知見を有する者により構成される合議体による判定」の意味に関する金融庁のパブコメ回答に関する筆者の意見を述べました。

今回以降はその他の点を中心に更に検討を進めてみたいと思います。まず、イスラム金融と貸金業法との関係です。金融庁のパブコメ回答においては、

銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2にかかる業務として行う取引が貸金業法第2項第1項に規定する「貸付け」に該当する場合は、国内において業務として行う銀行の子会社・兄弟会社は貸金業法の登録が必要である。

という趣旨のことが述べられています。

貸金業法第2条第1項の「金銭の貸付け」の意味について、立法当時の文献では、金銭消費貸借契約の要物性に関する判例の考え方を援用し、「金銭と同一の経済的利益を有するものが交付されるという事実に着目して判定すべきである。」という趣旨の考え方が打ち出されています(大蔵省銀行局内貸金業関係法令研究会編「Q&A貸金業ハンドブック」(金融財政事情研究会刊)17頁)。

貸金業法第2条第1項の文言においても、「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付又は当該方法によってする金銭の授受の媒介を含む。」と書かれており、銀行業務の「資金の貸付け」(銀行法第2条第2項第1号)よりも範囲が広いことが窺われます。

金融庁のパブコメ回答によれば、銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の「金銭の貸付けと同視すべきもの」には、ムラーバハ(意味については過去のブログへ→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.html)やイジャーラ(意味については過去のブログへ→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.html)が含まれると考えているようですが、これらが更に、貸金業法の「貸付け」に該当するかどうか断定的な言い回しを避けています。

しかしながら、例えばセール・リースバック取引は売渡担保と類似点があるとも言うことができ、イスラム流リースともいうべきイジャーラを使ったセール・リースバック取引は、貸金業法第2条第1項の「金銭の貸付け」に該当すると考える余地があるかも知れません。なお、イジャーラによるセール・リースバック取引はイスラム法(シャリア)に反しないと考える見解があり、セール・リースバック取引を裏づけ資産としたスクーク(イスラム債)の発行事例が存在します。

もっとも、金融庁のパブコメ回答によれば、国内で貸金業法第2条第1項に規定する「金銭の貸付け」に該当する取引を業として行う場合には貸金業の登録が必要と述べているに過ぎません。筆者の想像では、国内で銀行子会社・兄弟会社が国内の資金需要者を相手にわざわざイスラム金融を行うことは、現実的には余り考えられませんので、貸金業の登録が必要とされるケースはそれほど多くは無いとも考えられます。

しかしながら、金融庁が一般論として、ムラーバハやイジャーラについて貸金業法の「貸付け」に該当する可能性があると考えているとしたら、この論点は少し広がりがある問題になるのではないかと考えています。

というのは、例えば、銀行子会社・兄弟会社以外の事業会社やSPCが国内でムラーバハやイジャーラを組成する場合、貸金業法の登録が必要とならないかという疑問が生じるためです。国内で組成したムラーバハやイジャーラを裏付け資産として海外でスクーク(イスラム債)を発行するような場合を想定すると国内でのムラーバハやイジャーラの組成があり得ると思うのです。

事業会社でもノンバンクの場合には貸金業法の登録をしていると思いますので、改めて貸金業の登録が必要ということは無いでしょう。しかしながら、イスラム金融に取り組んでいる投資ファンドが国内にSPCを設立してSPCにムラーバハやイジャーラを締結させるといった場合を想定すると、SPCについては「金銭の貸付け」に、投資ファンドについては「金銭の貸付けの媒介」(貸金業法第2条第1項)に該当する可能性が出てこないでしょうか?(もっとも、今回限りの取引なので「業として」取引を行っているわけではない、という問題整理をして、貸金業の登録を回避する余地はあるかも知れませんが…。)

そういえば、ということで思い出すのですが、以前このブログで紹介させて頂いたアトラス・パートナーズの不動産投資スキーム(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/11_9305.html)のようなスキームではSPCを使っており、貸金業法の論点が検討課題になっていた可能性があるのですが、筆者はこの件には関与しておりませんので、どうしたのかは良くわかりません。

いずれにせよ、金融庁のパブコメ回答の内容が曖昧であり、この記事で述べたようなスキームにまで一般化できるものかどうか良くわかりません。今後の案件にどのような影響が出てくるのかは事例の集積を待つしかないと思います。

2009年1月 5日 (月)

イスラム金融(31)銀行法施行規則の改正(6)

以前このブログにおいて、イスラム金融のうち筆者が「契約型」と呼んでいるムラーバハ、サラム、イスティスナー、イジャーラについては、実物取引の形式をとっているため、金融機関がイスラム金融を行う際には、実物取引から生じるリスクに晒される可能性があるということを述べました。→イスラム金融(26)銀行法施行規則の改正http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/26-0b4c.html

この点について、金融庁のパブコメ回答では「銀行の子会社・兄弟会社が商品や不動産を保有することについては、当該業務が金銭の貸付けと同視できる範囲において許容される」と述べられており、金融機関が実物取引に伴うリスクに晒される可能性は認めているものと思われます。

金融庁のパブコメ回答としては、その所轄事項しか回答しないと考えられますので、特に記載は無い点ですが、実物取引に関する規制があれば、それに服することも前提となっているのではないかと思います。

さて、次に問題は改正銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2における「宗教上の規律について専門的な知見を有する者により構成される合議体の判定に基づき行われるもの」という文言の解釈です。

この点に関する金融庁のパブコメ回答は、次の通り要約できるかと思います。

1. 合議体による判定は利息の受領を伴う金銭の貸付けに該当しないかどうかのみならず、宗教上の規律全般への適合性も含む。

2. 合議体とは、銀行子会社・兄弟会社の内部に設置される必要はなく、外部の専門機関に判定を委託することは可能である。

3. 他の金融機関による判定や資金調達する側の合議体の判定を同号の判定として取り扱う場合、その妥当性が疎明できるものである必要がある。

4. 同一のスキームの取引について合議体の判定を包括的に受けることは、銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の趣旨を逸脱しない限りにおいて許容される。

5. 合議体の招集手続きや決議方法は銀行子会社・兄弟会社の合議体自身が定めることを想定している。

イスラム金融をかじったことがある方ならば、誰でもご存知かと思いますが、ここで「合議体」とは取引の内容・仕組みがイスラム法(シャリーア)に適合しているかどうかを判定する「シャリーア・ボード」(シャリーア委員会)のことです。

シャリーア適格の判定をすることができるイスラム法学者の必要条件としては、イスラム教の神学者であることだという話を聞いたことがありますが、神学者であると同時に法律の素養もあり、かつ金融も分かる人がこうしたシャリーア・ボード(シャリーア委員会)の構成員になると考えられます。

そこで、金融庁のパブコメ回答に戻りますと、イスラム金融においては金利の禁止が強調される向きもありますが、それ以外にも、アルコールの禁止(そのコロラリーとしての麻薬の禁止など)、豚肉の禁止がありますし、不明確性の禁止といった宗教上の規律もあります。また、これはイスラム金融のバックボーンとなっているといっても良いと思うのですが、実物取引との結びつきが問題となる場面もあります。(このあたりの問題については、以前のブログでもちょっと触れていますので、関心のある方はご参照下さい。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/14_8590.html

シャリーアボード(シャリーア委員会)による審査はこうした点まで及んでいることを意識した上でのパブコメ回答であろうと思います。

また、以前のブログにおいて、シャリーア・ボード(シャリーア委員会)による判定は包括的に取得することが認められるのかという問題提起をしましたが(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/26-0b4c.html)、この点については、それも許容される旨の回答をいただきましたので、一安心です。

また、シンジケーションによるイスラム金融を組成する場合、例えばリードアレンジャーとなった銀行のシャリーア・ボード(シャリーア委員会)の判定を援用することが出来るかという点も問題となり得るところですが、恐らく上記のパブコメ回答ではその妥当性が疎明できる場合には許容されると考えているようです。

ということで、シャリーア・ボード(シャリーア委員会)による判定に関しては、筆者が問題提起した点について、一応の解決がなされているのではないかと思いました。

【追記】シャリーア・ボードについては、2009年11月2日の記事「イスラム金融(35)IFSBのイスラム金融セミナーへ行ってきました(その2)をご参照下さい。」URL→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/35ifsb2-b750.html (2009年11月2日記)

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