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2008年12月

2008年12月30日 (火)

イスラム金融(30)銀行法施行規則の改正(5)

本日はスクーク(イスラム債)についての金融庁のパブリックコメントに対する回答に話を進めてみたいと思います。スクーク(イスラム債)の一般的なことを知りたいという方は、このブログでもスクーク(イスラム債)については、二度取り上げたことがありますので、そのときの記事をご参照下さい。→イスラム金融(3)「スクークと社債と株式の比較」(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/3_b0f9.html);イスラム金融(18)「債権譲渡とスクークの譲渡性」(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/18_987b.html)

スクーク(イスラム債)に関する金融庁のパブコメ回答は以下の通りまとめることができるかと思います。

1. スクーク(イスラム債)の引受け、募集、売出しや取得は、銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の「金銭の貸付けと同視すべきもの」には該当せず、同号以外の規定に照らして判断される。

2. スクーク(イスラム債)の引受け、募集、売出しの業務の扱いについて、銀行の子会社・兄弟会社である証券会社とそうでない証券会社との間では差はない。

3. スクーク(イスラム債)の取得が銀行法第10条第2項第2号の「有価証券の売買」に該当するかどうかは、スクーク(イスラム債)が金融商品取引法第2条の有価証券に該当するかどうかにより判断される。

スクーク(イスラム債)に関する金融庁の考え方は割合と明確ではないかと思います。要するに、金融商品取引法の「有価証券」に該当するかどうかが論点であるということだと思います。

スクーク(イスラム債)は、原則として、社債のように単に発行会社に対する金銭債権を表章したものではなく、発行会社の一部の資産に対する持分を表章したものと考えることが出来ます。株式との相違は株式は発行会社の資産全体に対する持分を表章するものであり、一旦発行されると永続することが前提となるのに対して、スクーク(イスラム債)の場合は、スクークの引当となる資産に対する持分だけを表章するものであり、しかも償還期限には償還されて無くなることが前提となります。

このような特質から、海外でのスクークの発行例の非常に多くが、スクークの引当となる資産をSPCへ移転したり、信託するというスキームを採用しています。恐らく信託を使っているケースが大多数ではないかと思うのですが、信託の方法には、我が国の信託法における自己信託に類似する信託宣言を使うものもかなり多く存在します。スクークの引当になる資産としては、例えばイジャーラ(イスラム流リース)の賃貸物件と賃貸人の地位であったり、ムシャーラカ(イスラム流パートナーシップ)の持分であたったり、色々ありますが、いずれにせよ、イスラムの戒律に適合した資産が引当になる資産に使われています。そして、信託を使ったスキームでは、信託証書という形式によるスクーク(イスラム債)が発行されています。

そのような意味で、イスラム金融はストラクチャード・ファイナンス(仕組み金融)の性質を有しているのです。

スクーク(イスラム債)の大多数が信託証書の形式で発行されているとした場合、恐らく金融取引法では受益証券発行信託の受益証券(金融商品取引法第2条第1項第14号)の性質を有する外国の者が発行する証券又は証書(同項第17号)として取り扱われる可能性が高いのではないかと思います。

もっとも、我が国の信託法では信託の受益権を「受益債権」と定義しております(信託法第2条第2項第7号)。スクークは裏付け資産に対する持分を表章していますので、「受益証券発行信託の受益証券」と同一の性質を有するとまでは言い難いという反論もあり得るとは思います。

また、金融と実物との結びつきが必要とされるのがイスラム金融の特色ですので、証券発行前の安定操作として債券の市場価格を支える目的での発行前の市場におけるスクークの販売が出来ないなど、通常の有価証券とは異なる点もあります。この論点に関連するのは、スクークの譲渡性に関する議論ですが、この点については、「イスラム金融(18)債権譲渡とスクークの譲渡性」の項目をご参照下さい。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/18_987b.html

2008年12月29日 (月)

イスラム金融(29)銀行法施行規則の改正(4)

前回(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/283-d35f.html)は、今般の改正により追加された銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の「貸付けと同視すべきもの」にどのようなものが含まれるのかについて、筆者の意見を述べましたが、本日はその補足をします。

まず、金融庁のパブリックコメントに対する回答において、「貸付けと同視すべきもの」には、イジャーラが念頭に置かれているとしつつ、ファイナンス・リースはこれに該当するが、オペレーティング・リースは通常該当しないと述べている点の補足です。

この点を再考しますと、金融庁の回答において、ファイナンス・リースの定義が書かれていないので、どうも良くわからないということがいえると思います。銀行法施行規則第17条の3第2項第11号は、銀行子会社・兄弟会社が従事できるリースについて定めており、これはファイナンス・リースを念頭に置いているはずなのですが、金融庁の回答によれば、イジャーラとはこれとは別種の取引であって、第11号の適用は受けないとも書かれているのです。(銀行法施行規則第17条の3第2項第11号→「enforcement_regulation_of_banking_lawart_173_sec_2_item_11.doc」をダウンロード )

「別種の取引」というのは、第11号のイ、ロ、ハの要件を満たさないものを言うのでしょうか?それとも第11号のイ、ロ、ハを満たした上で、更に追加的に何かが必要なのでしょうか?この点がまずはっきりしません。

イスラム金融法の大御所であるUsmani氏(以前にもこのブログで扱っています→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/23aaoifi-ebfc.html)によれば、通常ファイナンス・リースに見られる以下のような規定はシャリア(イスラム法)に反すると述べています。

1. レッシーによるリース物件の占有開始の如何を問わず、レッサーがサプライヤーにリース物件の代金を支払ったときに、リースが直ちに開始するもの

2. 目的物の滅失毀損のリスクはレッシーが負担し、免責されない。

3. 遅延損害金の定め

4. 中途解約における規定損害金の定め

金融庁の回答でいう「ファイナンス・リース」がこれらの規定を含んでいるものを言うのであれば、今回の改正により追加された銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2に該当するイジャーラは無いことになってしまいます。

本当にそうなのでしょうか?金融庁も内閣府令を作る際に色々調査しているはずなので、このくらいのことは分かっているはずなのになぁ…と思います。

次に、ムダーラバとムシャーラカが銀行法第10条第2項第2号の「有価証券の売買」に該当するかという点ですが、よくよく考えてみると、この点も本当は分からない点です。

ムダーラバについては、以前このブログで書いたとおり(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/1_ea82.html)、法制史的な見地からいっても、我が国の法律で一番近いものは、匿名組合であると思います。(日本人が書いた文献では信託や投資信託が一番近いと書かれたものがありますが、外国の文献ではpartnershipの一つであるという説明をしているものが多いので、筆者は匿名組合に近い制度であると理解すべきと考えております。)

ムダーラバが匿名組合と信託のいずれに類似する制度かという問題はさておき、ムダーラバが匿名組合とも信託とも違うと考えられる点が一つあるのです。

ムダーラバのおさらいをすると、Rabb Al-maalという匿名組合員にあたる者からの出資を受けたMudaribという営業者にあたる者が、事業を行い、その利益をRabb Al-maalに対して分配するというものです。ところで、出資財産は誰に帰属するのかというと、文献上明確に書かれているものは少ないのですが、Rabb Al-maalに帰属すると考えられているようです。なお、"Rabb"とはアラビア語で「所有者」、"maal"とはアラビア語で「物」を意味するということですので、言葉の意味としても、出資財産は匿名組合員にあたる"Rabb Al-maal"に帰属すると考えてよさそうですね。(イスラム教国の制定法において、これとは異なる制度を採っているものがあるかも知れませんが、制定法は本来のシャリア(イスラム法)ではないという理解の下で、制定法は捨象しています。)

これに対して、匿名組合の場合には出資財産が営業者に帰属するという明文の規定がありますし(商法537条第1項)、信託の場合も自己信託は別として、受託者に信託財産が帰属すると考えられます(信託法第3条)。ただ、信託の場合には、信託財産の独立性の原則により、信託財産は受託者の固有財産とは分別管理されるわけです。

従って、出資財産の帰属の点で、ムダーラバと匿名組合や信託は異なるものではないかと考えられます。

ムダーラバが金融商品取引法で規定している信託受益権や匿名組合員の権利に類するもの(金融商品取引法第2条第2項第2号、第6号)に該当するかどうか吟味する場合、出資財産の帰属の点によって結論が変わりうるのかどうかが論点の一つになるであろうと考えております。

本日は前回のブログ記事の続編として、ファイナンス・リースの定義の如何によっては、イジャーラが銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の「貸付けと同視すべきもの」に該当するかどうか疑問が出てくるということと、ムダーラバについて金融商品取引法で定義する「有価証券」に含めることができるかどうか疑問が無くはないということを述べさせて頂きました。

次回以降も銀行法施行規則の改正とイスラム金融の一部解禁について扱う予定です。

2008年12月26日 (金)

イスラム金融(28)銀行法施行規則の改正(3)

長期にわたってブログの更新をサボっていましたが、本日より複数回にわたって平成20年度の銀行法施行規則の改正を中心に、イスラム金融の一部解禁について扱うことにします。

平成20年9月19日にパブリックコメントに付された銀行法施行規則の改正案については、12月2日にその結果が公表され12月12日より施行されています。→http://www.fsa.go.jp/news/20/20081202-1.html

銀行法施行規則第17条の3第2項は、銀行の子会社・兄弟会社が従事できる「金融関連業務」(銀行法16条の2第2項第2号)を定義しているわけですが、今回の改正により第2号の2が追加され、イスラム金融の一部を「金融関連業務」として新たに規定しているわけです。

(銀行法施行規則17条の3第2項第2号の2)(新設条文)

「金銭の貸付以外の取引に係る業務であって、金銭の貸付けと同視すべきもの(宗教上の規律の制約により利息を受領することが禁じられており、かつ、当該取引が金銭の貸付け以外の取引であることにつき宗教上の規律について専門的な知見を有する者により構成される合議体の判定に基づき行われるものに限る。」「enforcement_regulation_of_banking_law2008_amendment_re_islamic_finance.doc」をダウンロード

さて、上記の規定の解釈ですが、いくつか問題点がありそうです。本日は、その一つとして、「金銭の貸付け以外の取引に係る業務であって金銭の貸付けと同視すべきもの」とは如何なる取引を意味するかという問題点を扱いたいと思います。

この点について、以前このブログにおいて、ムダーラバやムシャーラカのように融資よりも出資に近いものが「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当するのかどうかという問題提起を致しました。(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/26-0b4c.html)(なお、ムダーラバの意義については、http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/1_ea82.htmlを、また、ムシャーラカの意義については、http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/10_6fbc.htmlを参考になさって下さい。)

上記の問題点に関してパブリックコメントに対する回答に記された金融庁の考え方を要約すると以下の通りまとめることが出来るのではないかと思います。

1. 上記規定は、ムラーバハやイジャーラなど金銭の貸付けとは異なる契約類型だが、金銭の貸付けと同視できる効果を有するものを想定している。(ムラーバハ→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.htmlやイジャーラ→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.htmlについては、過去のブログで扱っていますので、リンクを示しておきます。)

2.オペレーティング・リースは「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当しない。

3. ムダ-ラバやムシャーラカなど出資の性格を有するものは、「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当せず、これらの取引が銀行の子会社・兄弟会社の業務範囲に含まれるかどうかは、他の規定によって判断される。

4. ムダーラバやムシャーラカが銀行法第10条第2項第2号の「有価証券の売買」に該当するかどうかは、金融商品取引法の「有価証券」(いわゆる「2項有価証券」を含む。)に該当するかどうかで判断される。(当初公表されたパブコメの結果では条文の引用に誤りがありましたが、本日見たらこっそり直されていました。 ( ̄ー ̄)ニヤリ)

本日は以上の4点について、筆者なりのコメントをしたいと思います。

1.まず、オペレーティング・リースは「金銭の貸付けと同視すべきもの」に通常該当しないと述べている点です。以前にもこのブログで書いたことですが(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.html)、イスラム金融におけるイジャーラとは、ファイナンス・リースよりもオペレーティング・リースに近いものです。従って、このようなことを言われてしまうと、果たして本当にイジャーラが「金銭の貸付けと同視すべきもの」と認められているのか、疑問が出てくるわけです。 

さりとて、イジャーラを使う場合なるべくファイナンス・リースに近い形に設計をするとしたら、今度はシャリーア(イスラム法)に反する判定を食らう虞も出てきます。ファイナンス・リースに通常見られるような規定があるイジャーラはシャリーアに反するというのが、多くのイスラム法学者たちの見解だからです。

実務では規制の内容が不明確ですと、保守的に解釈しがちですので、この規定が結果的にイジャーラの自由な商品設計の妨げとならないだろうか、という疑問があります。

2. 次に、ムダーラバとムシャーラカの扱いなのですが、「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当しないが、「有価証券の売買」に該当するかどうかは金融商品取引法の有価証券の定義によって判断されると述べています。

そのココロを察するに、ムダーラバやムシャーラカは、金融商品取引法第2条第2項に規定するいわゆる「みなし有価証券」のうち、信託の受益権(1号)、民法上の組合持分(第5号)又は匿名組合員の権利(第5号)に類する外国の法令に基づく権利(第6号)と考える余地があるといっているのだろうと思います。

なお、「有価証券の売買」というと、既発行証券の売買のイメージがあり、セカンダリー・マーケットでの売買しか出来ないのか?という疑問を持つかも知れませんが、銀行法第2条第2項第2号の「有価証券の売買」は新規発行証券の取得も含むと考えられていますので、新規にムダーラバやムシャーラカ契約を締結するのも、これに含まれると金融庁は考えているのではないかと思います。(銀行法第2条第2項第2号の「有価証券の売買」には新規発行証券の取得も含むという解釈については、小山嘉昭「詳解銀行法」(きんざい刊)171頁をご参考になさってください。)

3. パブリックコメントには出ていませんが、銀行の子会社・兄弟会社に認められる業務として「金銭債権の取得又は譲渡」(銀行法第10条第2項第5号、銀行法施行規則第17条第2項第3号)がありますが、ムダーラバやムシャーラカをこちらへ入れることには疑問があります。何故なら、ムダーラバやムシャーラカは、投資対象財産に対する投資家の持分を表章している性格があり、純粋な金銭債権とは言いがたいと考えられるからです。また、こちらの方はセカンダリー・マーケットでの債権の流通を前提にした規定と考えられますから、その意味でも「金銭債権の取得又は譲渡」に含めるのはちょっと難しいかな、という感じがします。

4. さて、整理をすると、

ムラーバハ、イジャーラ等の筆者が「契約型」と呼んでいるイスラム金融の手法については、新設された銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2でカバーされ、「組合型」と呼んでいるものについては、銀行法第10条第2項第2号(銀行法施行規則第17条の3第2項第3号により金融関連業務に含まれる。)によってカバーされるという整理になりますが、

銀行法の規制では、イスラム金融という範疇に含まれるもののうち、契約型は、シャリア・ボードによる判定が前提になるのに対して、組合型では前提にならないということになります。

何となく釣り合いが取れていない感じがするのですが、如何でしょうか?

恐らく当局の考え方は、既存の規制の枠組みをなるべく変えずに、必要最小限と考えるところだけを改正するという発想が背景にあるのではないかという気がします。

非常に大雑把な話ですが、我が国の金融の規制の在り方としては、投資と融資は本質的に違うという理解の下で、法令の体系を組み立てているのではないかと思います。ところが、イスラム金融のように、投資という形式を取りながら、経済的な実質としては融資のような結果を意図するような商品が出てくると、今までの規制の枠組みには整然と収まらなかったのではないかなという気がするのです。そのように考えると、イスラム金融の登場というのは、これまでの規制の在り方に一石を投じるものなのかも知れません

続きは次回として、本日はこの辺でPCの電源を切りたいと思います。

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