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2008年12月29日 (月)

イスラム金融(29)銀行法施行規則の改正(4)

前回(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/283-d35f.html)は、今般の改正により追加された銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の「貸付けと同視すべきもの」にどのようなものが含まれるのかについて、筆者の意見を述べましたが、本日はその補足をします。

まず、金融庁のパブリックコメントに対する回答において、「貸付けと同視すべきもの」には、イジャーラが念頭に置かれているとしつつ、ファイナンス・リースはこれに該当するが、オペレーティング・リースは通常該当しないと述べている点の補足です。

この点を再考しますと、金融庁の回答において、ファイナンス・リースの定義が書かれていないので、どうも良くわからないということがいえると思います。銀行法施行規則第17条の3第2項第11号は、銀行子会社・兄弟会社が従事できるリースについて定めており、これはファイナンス・リースを念頭に置いているはずなのですが、金融庁の回答によれば、イジャーラとはこれとは別種の取引であって、第11号の適用は受けないとも書かれているのです。(銀行法施行規則第17条の3第2項第11号→「enforcement_regulation_of_banking_lawart_173_sec_2_item_11.doc」をダウンロード )

「別種の取引」というのは、第11号のイ、ロ、ハの要件を満たさないものを言うのでしょうか?それとも第11号のイ、ロ、ハを満たした上で、更に追加的に何かが必要なのでしょうか?この点がまずはっきりしません。

イスラム金融法の大御所であるUsmani氏(以前にもこのブログで扱っています→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/23aaoifi-ebfc.html)によれば、通常ファイナンス・リースに見られる以下のような規定はシャリア(イスラム法)に反すると述べています。

1. レッシーによるリース物件の占有開始の如何を問わず、レッサーがサプライヤーにリース物件の代金を支払ったときに、リースが直ちに開始するもの

2. 目的物の滅失毀損のリスクはレッシーが負担し、免責されない。

3. 遅延損害金の定め

4. 中途解約における規定損害金の定め

金融庁の回答でいう「ファイナンス・リース」がこれらの規定を含んでいるものを言うのであれば、今回の改正により追加された銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2に該当するイジャーラは無いことになってしまいます。

本当にそうなのでしょうか?金融庁も内閣府令を作る際に色々調査しているはずなので、このくらいのことは分かっているはずなのになぁ…と思います。

次に、ムダーラバとムシャーラカが銀行法第10条第2項第2号の「有価証券の売買」に該当するかという点ですが、よくよく考えてみると、この点も本当は分からない点です。

ムダーラバについては、以前このブログで書いたとおり(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/1_ea82.html)、法制史的な見地からいっても、我が国の法律で一番近いものは、匿名組合であると思います。(日本人が書いた文献では信託や投資信託が一番近いと書かれたものがありますが、外国の文献ではpartnershipの一つであるという説明をしているものが多いので、筆者は匿名組合に近い制度であると理解すべきと考えております。)

ムダーラバが匿名組合と信託のいずれに類似する制度かという問題はさておき、ムダーラバが匿名組合とも信託とも違うと考えられる点が一つあるのです。

ムダーラバのおさらいをすると、Rabb Al-maalという匿名組合員にあたる者からの出資を受けたMudaribという営業者にあたる者が、事業を行い、その利益をRabb Al-maalに対して分配するというものです。ところで、出資財産は誰に帰属するのかというと、文献上明確に書かれているものは少ないのですが、Rabb Al-maalに帰属すると考えられているようです。なお、"Rabb"とはアラビア語で「所有者」、"maal"とはアラビア語で「物」を意味するということですので、言葉の意味としても、出資財産は匿名組合員にあたる"Rabb Al-maal"に帰属すると考えてよさそうですね。(イスラム教国の制定法において、これとは異なる制度を採っているものがあるかも知れませんが、制定法は本来のシャリア(イスラム法)ではないという理解の下で、制定法は捨象しています。)

これに対して、匿名組合の場合には出資財産が営業者に帰属するという明文の規定がありますし(商法537条第1項)、信託の場合も自己信託は別として、受託者に信託財産が帰属すると考えられます(信託法第3条)。ただ、信託の場合には、信託財産の独立性の原則により、信託財産は受託者の固有財産とは分別管理されるわけです。

従って、出資財産の帰属の点で、ムダーラバと匿名組合や信託は異なるものではないかと考えられます。

ムダーラバが金融商品取引法で規定している信託受益権や匿名組合員の権利に類するもの(金融商品取引法第2条第2項第2号、第6号)に該当するかどうか吟味する場合、出資財産の帰属の点によって結論が変わりうるのかどうかが論点の一つになるであろうと考えております。

本日は前回のブログ記事の続編として、ファイナンス・リースの定義の如何によっては、イジャーラが銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2の「貸付けと同視すべきもの」に該当するかどうか疑問が出てくるということと、ムダーラバについて金融商品取引法で定義する「有価証券」に含めることができるかどうか疑問が無くはないということを述べさせて頂きました。

次回以降も銀行法施行規則の改正とイスラム金融の一部解禁について扱う予定です。

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