イスラム金融(28)銀行法施行規則の改正(3)
長期にわたってブログの更新をサボっていましたが、本日より複数回にわたって平成20年度の銀行法施行規則の改正を中心に、イスラム金融の一部解禁について扱うことにします。
平成20年9月19日にパブリックコメントに付された銀行法施行規則の改正案については、12月2日にその結果が公表され12月12日より施行されています。→http://www.fsa.go.jp/news/20/20081202-1.html
銀行法施行規則第17条の3第2項は、銀行の子会社・兄弟会社が従事できる「金融関連業務」(銀行法16条の2第2項第2号)を定義しているわけですが、今回の改正により第2号の2が追加され、イスラム金融の一部を「金融関連業務」として新たに規定しているわけです。
(銀行法施行規則17条の3第2項第2号の2)(新設条文)
「金銭の貸付以外の取引に係る業務であって、金銭の貸付けと同視すべきもの(宗教上の規律の制約により利息を受領することが禁じられており、かつ、当該取引が金銭の貸付け以外の取引であることにつき宗教上の規律について専門的な知見を有する者により構成される合議体の判定に基づき行われるものに限る。」「enforcement_regulation_of_banking_law2008_amendment_re_islamic_finance.doc」をダウンロード
さて、上記の規定の解釈ですが、いくつか問題点がありそうです。本日は、その一つとして、「金銭の貸付け以外の取引に係る業務であって金銭の貸付けと同視すべきもの」とは如何なる取引を意味するかという問題点を扱いたいと思います。
この点について、以前このブログにおいて、ムダーラバやムシャーラカのように融資よりも出資に近いものが「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当するのかどうかという問題提起を致しました。(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/26-0b4c.html)(なお、ムダーラバの意義については、http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/1_ea82.htmlを、また、ムシャーラカの意義については、http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/10_6fbc.htmlを参考になさって下さい。)
上記の問題点に関してパブリックコメントに対する回答に記された金融庁の考え方を要約すると以下の通りまとめることが出来るのではないかと思います。
1. 上記規定は、ムラーバハやイジャーラなど金銭の貸付けとは異なる契約類型だが、金銭の貸付けと同視できる効果を有するものを想定している。(ムラーバハ→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.htmlやイジャーラ→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.htmlについては、過去のブログで扱っていますので、リンクを示しておきます。)
2.オペレーティング・リースは「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当しない。
3. ムダ-ラバやムシャーラカなど出資の性格を有するものは、「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当せず、これらの取引が銀行の子会社・兄弟会社の業務範囲に含まれるかどうかは、他の規定によって判断される。
4. ムダーラバやムシャーラカが銀行法第10条第2項第2号の「有価証券の売買」に該当するかどうかは、金融商品取引法の「有価証券」(いわゆる「2項有価証券」を含む。)に該当するかどうかで判断される。(当初公表されたパブコメの結果では条文の引用に誤りがありましたが、本日見たらこっそり直されていました。 ( ̄ー ̄)ニヤリ)
本日は以上の4点について、筆者なりのコメントをしたいと思います。
1.まず、オペレーティング・リースは「金銭の貸付けと同視すべきもの」に通常該当しないと述べている点です。以前にもこのブログで書いたことですが(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.html)、イスラム金融におけるイジャーラとは、ファイナンス・リースよりもオペレーティング・リースに近いものです。従って、このようなことを言われてしまうと、果たして本当にイジャーラが「金銭の貸付けと同視すべきもの」と認められているのか、疑問が出てくるわけです。
さりとて、イジャーラを使う場合なるべくファイナンス・リースに近い形に設計をするとしたら、今度はシャリーア(イスラム法)に反する判定を食らう虞も出てきます。ファイナンス・リースに通常見られるような規定があるイジャーラはシャリーアに反するというのが、多くのイスラム法学者たちの見解だからです。
実務では規制の内容が不明確ですと、保守的に解釈しがちですので、この規定が結果的にイジャーラの自由な商品設計の妨げとならないだろうか、という疑問があります。
2. 次に、ムダーラバとムシャーラカの扱いなのですが、「金銭の貸付けと同視すべきもの」に該当しないが、「有価証券の売買」に該当するかどうかは金融商品取引法の有価証券の定義によって判断されると述べています。
そのココロを察するに、ムダーラバやムシャーラカは、金融商品取引法第2条第2項に規定するいわゆる「みなし有価証券」のうち、信託の受益権(1号)、民法上の組合持分(第5号)又は匿名組合員の権利(第5号)に類する外国の法令に基づく権利(第6号)と考える余地があるといっているのだろうと思います。
なお、「有価証券の売買」というと、既発行証券の売買のイメージがあり、セカンダリー・マーケットでの売買しか出来ないのか?という疑問を持つかも知れませんが、銀行法第2条第2項第2号の「有価証券の売買」は新規発行証券の取得も含むと考えられていますので、新規にムダーラバやムシャーラカ契約を締結するのも、これに含まれると金融庁は考えているのではないかと思います。(銀行法第2条第2項第2号の「有価証券の売買」には新規発行証券の取得も含むという解釈については、小山嘉昭「詳解銀行法」(きんざい刊)171頁をご参考になさってください。)
3. パブリックコメントには出ていませんが、銀行の子会社・兄弟会社に認められる業務として「金銭債権の取得又は譲渡」(銀行法第10条第2項第5号、銀行法施行規則第17条第2項第3号)がありますが、ムダーラバやムシャーラカをこちらへ入れることには疑問があります。何故なら、ムダーラバやムシャーラカは、投資対象財産に対する投資家の持分を表章している性格があり、純粋な金銭債権とは言いがたいと考えられるからです。また、こちらの方はセカンダリー・マーケットでの債権の流通を前提にした規定と考えられますから、その意味でも「金銭債権の取得又は譲渡」に含めるのはちょっと難しいかな、という感じがします。
4. さて、整理をすると、
ムラーバハ、イジャーラ等の筆者が「契約型」と呼んでいるイスラム金融の手法については、新設された銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2でカバーされ、「組合型」と呼んでいるものについては、銀行法第10条第2項第2号(銀行法施行規則第17条の3第2項第3号により金融関連業務に含まれる。)によってカバーされるという整理になりますが、
銀行法の規制では、イスラム金融という範疇に含まれるもののうち、契約型は、シャリア・ボードによる判定が前提になるのに対して、組合型では前提にならないということになります。
何となく釣り合いが取れていない感じがするのですが、如何でしょうか?
恐らく当局の考え方は、既存の規制の枠組みをなるべく変えずに、必要最小限と考えるところだけを改正するという発想が背景にあるのではないかという気がします。
非常に大雑把な話ですが、我が国の金融の規制の在り方としては、投資と融資は本質的に違うという理解の下で、法令の体系を組み立てているのではないかと思います。ところが、イスラム金融のように、投資という形式を取りながら、経済的な実質としては融資のような結果を意図するような商品が出てくると、今までの規制の枠組みには整然と収まらなかったのではないかなという気がするのです。そのように考えると、イスラム金融の登場というのは、これまでの規制の在り方に一石を投じるものなのかも知れません。
続きは次回として、本日はこの辺でPCの電源を切りたいと思います。
« イスラム金融(27)銀行法施行規則の改正(2) | トップページ | イスラム金融(29)銀行法施行規則の改正(4) »
「イスラム金融」カテゴリの記事
- イスラム金融(63)Dana Gasスクーク債の事実上のディフォルト(2017.06.22)
- イスラム金融(62)イランへの投資とFIPPA(2016.05.08)
- イスラム金融(61)イランにおけるイスラム金融(1)(2016.04.26)
« イスラム金融(27)銀行法施行規則の改正(2) | トップページ | イスラム金融(29)銀行法施行規則の改正(4) »
コメント