イスラム金融(23)AAOIFIのスクーク(イスラム債)の基準についての声明
既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、2008年2月に、AAOIFI(Accounting and Auditing Organization for Islamic Financial Institutions)という組織が、スクーク(イスラム債)についての基準に関して声明を発表し、ChairmanであるMuhamman Taqi Usmani氏(業界では超有名な人です。)が「既発行のスクークの85パーセントがシャリア(イスラム法)に反している。」というコメントをしたため、業界では物議を醸し出しているとのことです。
なお、AAOIFIとはイスラム金融会計・監査基準機構とも訳されており、バーレーンに拠点を置く、イスラム金融機関の会計・監査の基準を定めている機関で、イスラム法の解釈の統一のため、各種の基準を出しており、影響力のある機構と考えられます。
声名文は幾つかのパートから構成されていますが、その中で特に問題となっているのが、以下の点です。
1.スクークの中にはスクークの裏付け資産が生み出す利益がLiborを超えたときには、その超過額を"incentive fee"という名目で裏付け資産の運用者に支払うものがあるが、当該裏付け資産の予想収益を超えて実際の収益が生じているか否かを問わず、"incentive fee"という名目で支払うようなものは、投資家に対して固定的なリターンを支払うコンベンショナルな社債と同じ性質を有するもので、スクークの本質に反する。
2.実際のリターンが予定リターンを下回る場合には、運用者が不足額をスクーク所持人に対して貸し付けるのはイスラム法に反する。(運用者は貸付の見返りとしてincentive feeの支払いを受けるといった仕組みと結びついていることが多い。)
3.運用者がスクークの裏付け資産をスクークの残高で購入するのはイスラム法に反する。但し、市場価格や公正価格で購入するのはOK)
といったところです。
実は既発行のスクークでこれに引っかかりそうなものがあるのです。例えば、イジャーラ(リース)を裏付け資産としたスクークで、ディフォルト発生時、早期償還時或いは完済時において、リース物件を買い取る約束をしているものがあります。買取代金がスクークの返済資金に充当されるわけです。
また、西欧的な社債では期中において、一定の利払いが行われるわけですが、同様の効果を実現すべく、裏付け資産の運用から生じる利益がLiborを超えるときには、超過分を資産の運用者にincentive feeとして支払い、逆に、利益がLiborを下回るときには、資産の運用者において、その補填を行って、期中において投資家には一定のリターンが支払われるように工夫しているものがあるのです。
ここで、資産の運用者の定義について、上記の声名文では、ムダーラバのムダリブ(匿名組合の営業者に相当)、パートナー、代理人が該当するとしていますが、オリジネーターがそのような役割を果たしていれば、これに該当すると解釈することもできそうです。
ということで、上記の声明文の読み方によっては、既発行のスクークの中でイスラム法に反するものが本当にあるのかも知れません。もっとも、スクークの仕組みの中でどのような者を運用者と解釈するのかによって結論が違うと思いますし、レッシーが未払い賃料の残高で買い取るのはOKとしていますので、ここでご紹介した仕組みを取っているスクークが全部駄目なのかは何ともいえません。
しかしながら、かなり多くのスクークにおいて採用されているスキームに対する警告であることは確かです。
上記のAAOIFIの声明文の巷での評価は分かれているようで、既発行のスクークには影響なし、と言っている人もいます。ただ、あるところでみた統計では、昨年の同時期に比べ、AAOIFIの声明の発表後は明らかにスクークの発行高が減っています。
ところで、上記の仕組みはスクーク以外の不動産投資やプロジェクトファイナンスでも採用されているものがあり、AAOIFIの声明の影響はスクークに留まらないのではないか、という見方もあり得ると思います。
考えてみると、利息を禁止するイスラム金融では、金融機関と借主とが事業のリスクをお互いに分かち合うという原理に立っています。ところが、既存の商品には投資家に対して西欧的な社債のように固定的なリターンを保証するような仕組みが組み込まれているものが多数存在します。AAOIFIの声明はそうした風潮に対する警告としてのメッセージが含まれているということではないかと思います。
ということで、本日はちょっと怖いお話をさせて頂きました。
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