イスラム金融(22)債権の譲渡担保
しばらくブログの更新をお休みしましたが、その間、読者の方々からコメントを頂いたり、直接メールを頂いたりしておりました。コメントやメールを頂くとブログを続ける元気が出てきます。
さて、本日は元気が出てきたところで、債権の譲渡担保について少し書きます。結論から申し上げますと、イスラム法においては問題があり慎重な検討を要すると考えております。
以前「債権譲渡とスクークの譲渡性」という記事を書かせていただきましたが(2008年6月28日分; URL→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/18_987b.html)、その記事でも述べたとおり、イスラム法には"hawala"という用語があり、「債権譲渡」と訳している文献が幾つかあります。しかし、これは日本法における債権譲渡とはかなり異なる概念です。
そのときの記事で書いたことを復習しますと、例えば、甲が乙に対してA債権を有し、乙が丙に対してB債権を有していると仮定します。なお、A債権とB債権とは同額とします。ここで、乙がA債権から免責されるために、丙に対してB債権の履行を乙ではなく、甲に対して行うことを約束させれば、乙は丙に対するB債権を甲に譲渡したのと同様のこととなります。これがhawalaです。今回は図を作成して添付しました。「hawala.doc」をダウンロード
以上の説明からわかるように、日本法の債権譲渡とは大分違うものです。わが国の債権譲渡は添付した図で言えば、甲の乙に対するA債権の有無は関係が無く、単に乙が丙に対するB債権を丙に譲渡するだけの取引ということになります。
なお、付言しますと、「債権譲渡とスクークの譲渡性」についての記事を書いた後で、このブログの読者の方から、hawala(或いはhiwala)は送金取引に使われている概念であり、日本法的な債権譲渡は"bay al dayn"といい、債権額面と同額の対価が支払われる場合に限り有効と認められているということを教えていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
債権額面と同額の対価が支払われる場合には、"bay al dayn"として有効と認められるのでしょうが、対価が支払われない場合、イスラム法では、これを取立て委任をしていると考えています。つまり、乙は甲に対してB債権の取立委任をしたと考えるわけです。
そうすると、債権の譲渡担保を設定する場合、当然その債権の額面額に相当する対価が支払われるわけではありませんから、論理的には債権の譲渡担保は取立委任とみなされる可能性があるわけです。従って、日本法で通常イメージするような債権の譲渡担保が成り立たないのではないかという疑問があります。
もう一つの問題は、仮に取立委任とみなされた場合、イスラム法では"wakalah"と呼ばれる代理権授与は何時でも解除できるのが原則とされていることが問題となります。(これには例外があるそうで、この例外に依拠して設計されたプロジェクトファイナンスの担保パッケージもあるようですが、本日は到底その点まで言及する余裕はありませんので後日ということにします。)
イスラム法で代理、従って委任が何時でも解除できるということになると、取立委任とみなされた上、更には担保権設定者から何時でも解除されてしまうリスクもあるということになり、使い物にならないということになりそうです。
もっとも、制定法において上記の説明と違う定めをしていれば、それに依拠してストラクチャリングをするということも考えられますが、それでもストラクチャリングの段階で現地の法律事務所に確認をしないと、アブナイと思います。
[追記: イスラム圏における担保法の一般に関しては、「イスラム金融(7)担保」→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/7_1478.htmlの項目をご参照下さい。また、イスラーム的な債権譲渡の考え方が反映されているアラブ首長国連邦の民事取引法については、「イスラム金融(49)中東諸国の制定法」をご参照ください。→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/49-38cd.html ]