イスラム金融(18)債権譲渡とスクークの譲渡性
本日は債権譲渡とスクーク(イスラム債)の譲渡性の話をちょっと書きます。
イスラム法において債権譲渡はhawalaと呼ばれているようですが、日本法の債権譲渡とはイメージが異なる概念で、むしろ免責的債務引受に近いと考えるほうが良いと思います。
わかり易い例で言えば、甲が乙に対して債権を有しているとします(A債権)。また、乙は丙に対して債権を有しているとします(B債権)。A債権とB債権は同額とします。
ここで乙がA債権から免責されるために、丙に対してB債権の履行を乙ではなく甲に対して行う約束をさせたとすると、乙は丙に対するB債権を甲に譲渡したことと同様のことになります。これにより、甲の乙に対するA債権は原則として消滅します。このようなことをhawalaと呼んでいるようです。もしも、A債権が無い場合は、hawalaとは扱われず、B債権について甲に取立委任をしたと考えます。
従って、日本法の債権譲渡とはちょっとイメージが違う行為であるということに留意する必要があると思います。以上が古典的なイスラム法における債権譲渡についての説明です。
さて、今度はイスラム法において日本法におけるような債権譲渡ないし債権売買が可能なのかどうかですが、これについては利息の禁止と関連して考える必要があります。
イスラムの教えでは、実物取引に裏付けられない所得は嫌忌されており、金銭自体からは何も価値が生じないと考えています。利息の禁止の根拠もそのような教えに基づいています。
そして、金銭債権は現金と同じと考えますので、金銭債権の譲渡は原則として禁止されます。金銭からは何も価値が生じないので、ディスカウントをしたり、プレミアムをつけて売買することは利息の禁止に触れると考えています。(額面で売買することはできるのでしょうが…。)
従って、そのような金銭債権を表章する債券を売買することは、原則として出来ないことになります。つまり、日本法でいう社債の売買は出来ないわけです。
では、何故イスラム債(スクーク)の中では転売が認められており、各国の証券取引所に上場しているものもあるかと言えば、それらは、金銭債権を表章する有価証券と構成されておらず、金銭債権を生み出す原資産に対する割合的な持分権を表章する有価証券と構成されているからです。
例えば、リース資産を裏づけにしたスクーク・アル・イジャーラと呼ばれているものは、リースの対象となる資産を信託へ移転し、その資産を資金調達者にリースし、投資家へは信託財産に対する持分権を表章する有価証券を発行するという仕組みを取っています。日本法でいうと、受益証券発行信託のようなものですかね。(細かいことは全部捨象するとこのように要約できると思います。)なお、スクークとイスラム流リースであるイジャーラについては、このブログで以前書きましたので、リンクを貼っておきます。(2008年5月2日分「イスラム金融(3)スクークと社債と株式の比較」 URL→ http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/3_b0f9.html 同年6月18日分「イスラム金融(15)イジャーラ」 URL→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/15_6b50.html)
イスラム債(スクーク)はこのように実物に対する持分権を表章しているものですから、実物を市場で取引する出来るのと同様に、イスラム債(スクーク)も取引所において取引できると考えるわけです。
但し、譲渡が原則として禁止される金銭債権の範囲については、意見が一致しているわけではなく、マレーシアでは我々が見ると純粋な金銭債権に思えるようなものでも、実物との結びつきを認め譲渡可能であると考えています。この点は機会があれば触れることにしたいと思います。
本日の話は良くご存知の方には退屈であったかも知れませんが、疲れてきたので、この辺で失礼します。