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2008年6月22日 (日)

イスラム金融(17)わが国におけるイスラム法研究の現状

本日はイスラム法の研究者の方と色々とお話をする機会がありましたので、わが国におけるイスラム法の研究の現状について少々書きます。

年15パーセントから20パーセントの成長率といわれているイスラム金融が近年急成長を遂げた原因は何かですが、一つの原因として考えられることはイスラム国家におけるナショナリズムの高揚ということが背景事情として挙げることができると思われます。それは、金融取引においてもイスラムの教えを守るべきだという主張が強くなっているということです。

その結果、利息を取る西欧的な融資に固執する金融機関がイスラム国家への協調融資から排除される例が出ていると言われています。従って、今後はイスラム国家への投融資において、日本の金融機関もイスラム金融を取り入れることにしないと日本の金融機関はイスラム国家においてその存在感を示すことが出来なくなるということです。

イスラム国家への投融資がOut boundな取引だとすると、In boundな取引でもイスラム金融は今後問題となり得ると思います。

即ち、近時の石油価格の高騰を背景にイスラム国家に蓄積されたオイル・マネーが欧米企業、不動産への投融資に向けられています。昨年のイスラム資本によるアストン・マーチン社の株式の取得がそれ例です。そして、欧米市場が飽和すれば、いずれは大量のオイル・マネーがアジアにも向けられることになると思います。

加えて、外資による日本への投資促進の必要性というわが国自体のニーズもあります。

そのような観点でイスラム資本による投融資がわが国へ本格的に上陸した場合の対策を今から考えておく必要もあります。

ところで、わが国の研究者・実務家の対応はどのような状況でしょうか?

まず、研究者サイドですが、イスラム法のうちでも家族法の研究者に比べイスラム財産法の研究者の数が少ないことが指摘されます。また、イスラム財産法の研究者の関心も中世のイスラム法に偏っている傾向があり、現代イスラム財産法に関する邦語文献が非常に限られています。

日本中東学会という組織があるそうですが、その会員はジャーナリストなども含め600人くらいいるそうです。ところが、法学関係者がどのくらいいるかということですが、法制史学会の会員でイスラム法を研究テーマとして申告している人は4人だそうです。このほかに歴史学者でイスラム法に関係のある人を入れるともう少し増えるそうです。また、民法など他の分野を専攻されている研究者の中で、イスラム法も研究領域に含めていると申告している人は10数人程度。

アラビア語を使ってイスラム法をやっている人となると、1人か2人程度だそうです。本日話をした研究者の方の話では家族法を入れるともう少し居るかも知れないとのことでしたが、イスラム金融を専攻している研究者はいないのではないかとのことでした…。

研究者の方の数があまりにも少ないのにはびっくりしました。私たち実務家は研究者の基礎的な研究を参考に実務を組み立てていくのですが、基礎的な研究という土台が非常に小さいというのが現状です。

そこで、実務家サイドはどうかですが、まず、日本の弁護士でイスラム圏に関心を持っている人は極めて少ないといえます。イスラム圏と取引のある専門商社の顧問をしているような弁護士はいるようですが、そのような方のもっていらっしゃるノウハウも現地の商取引法、輸出入規制、外国人投資法や労働法といった制定法の分野に限られているようで、中世のイスラム法が参照されるイスラム金融の分野のプロとは必ずしも言えないようです。

最近は主に銀行家の手によるイスラム金融に関する書籍や講演などで情報発信が行われていますが、その内容はビジネス面が中心で邦語によるイスラム金融法に関する体系的な情報が限られているというのが現状だと思います。

古くからイスラム圏と取引のある総合商社や専門商社には担当者個人ベースでそれなりの情報が蓄積されている可能性はありますが、そのような情報は担当者の営業秘密のようなものですから、外部に発信されている情報は少ないと思われます。

これまで筆者個人で研究してきたところでは、イスラム圏での倒産法や倒産処理の実情に関しての研究らしきものが殆ど見当たりませんでした。多分唯一の例外は、(イスラム圏と言ってよいかどうかわかりませんが、イスラム教徒が大勢居るという意味で)日本の法整備支援活動が行われたウズベキスタン共和国の倒産法くらいではないかと思います。日本語で書かれているので、よく理解できます。(http://www.moj.go.jp/HOUSO/houkoku/japanese/commentary.pdf)なお、筆者が調査した成果の一部は、前回のブログにて発表しています(イスラム金融(16)「イスラム諸国の破産法」 http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/16_8f27.html)金融取引においては、倒産した場合どうなるのか、ということを考えながらストラクチャリングをしなくてはならないのですが、英語の文献に範囲を広げてもまだそれらしきものには逢着していません。

ということで、わが国の研究者及び実務家の対応は、進んでいないなぁというのが本日の感想でした。

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コメント

日本人のイスラム法学者ですが、正確な人数はわからないものの、もっとたくさんいます。
たとえば拓殖大学ではハラル認証を行っていますし、同志社大の中田教授はハンバリ派のFIQHのマニュアルを訳して、ご自身のホームページに掲載していたりします。
ただ、残念ながら、ファイナンスが判って、コモンローも判って、日本の法律も判って、FIQHも、となると今のところ居ないようです。

Assidiqueさんへ

コメント有難う御座いました。
私がお会いしたイスラム法の研究者の方は、人文科学系の方で、もしかしたら、人文科学系のイスラム法の研究者という趣旨でのご発言であったかも知れませんね。

またその方にお会いする機会があると思いますので、そのときにAssidiqueさんのお話をお伝えしておきますね。

頌子&肇

初訪問&初コメです。半年前に、租税法の観点からイスラム金融に興味をもって調べたのですが、確かに実務家では20年前に弁護士の方がイスラム契約法に関する訳書の中で金融に触れていたのが少数例だったかと。ムダーラバを匿名組合と訳していたのが印象的でした。ハーバードローのThe Islamic Finance Project報告書を図書館に入れてもらいましたが、日本でもイスラム金融法を扱うブログができるほどイスラム金融に対する意識が高まっていたのですね。また、拝見させていただきます。

gchさんへ

コメント有難う御座いました。
「風習が違うし、リスクが高そうだ。」という理由で、これまではイスラム圏を避けてきたビジネスマンも多かったと思うのですが、今後は相手にせざるを得ない世の中になっているのではないかと思います。
少しずつですがブログを書き貯めていく予定ですので、よろしくお願いします。

頌子&肇

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