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2008年6月20日 (金)

イスラム金融(16)イスラム諸国の破産法

以前このブログで「イスラム諸国においてイスラム圏の国において破産法や会社更生法が整備されているところが少ないのではないか」ということを書きましたが(2008年5月2日分;イスラム金融(3)「スクークと株式と社債の比較」→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/3_b0f9.html)、本日はそれにちょっと付け足しをします。

イスラム圏の国のすべてを調べたわけではありませんが、倒産処理に関する法律が制定法として存在するところのほうが多いのではないかと思います。但し、独立の法律として存在するとは限らず、会社法や商法の一部として破産法や和議法のような規定が存在する国や訴訟法の規定の一部として破産手続きを定めている国もあります。従って、"bankruptcy law"とか"insolvency law"といったキーワードで、インターネットのサーチをかけても見つからないことが多いのではないかと思います。

例えば、クエートの商法(Law of Commerce)には、破産を意味するbankruptcyに関する規定と和議を意味するcompositionの規定が存在します。オマーンはクエートの法律を手本に商法を制定しているとのことです。アラブ首長国連邦の場合、連邦法としてのFederal Law of Commercial Transactionの中に倒産処理に関する規定がありますが、それとは別にドバイ国際金融センター(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%90%E3%82%A4)には独自のInsolvency Lawがあります。いずれも清算型の手続きと再建型の手続きが定められています。

サウジ・アラビアはどうかといえば、1996年に制定されたComposition Law(和議法)があります。これは再建型の倒産処理手続きですが、清算型の倒産処理手続きについては、1931年に制定された商業裁判所法という法律があり、その一部に清算型の倒産処理手続きと考えられる規定があります。ところが、1931年制定の商業裁判所法に含まれる清算型の倒産処理手続きによれば、破産者は裁判所の職員によって身柄を拘束され警察署に留置されるといったことが書かれており、懲戒主義的な色彩が非常に強いように思われます。現実にこの法律どおり運用されているのでしょうか?

天然ガスの輸入で日本とも関係が深いカタールでは、2006年まで破産法が存在しなかったとのことで、制定後もまだこの法律によって処理をした倒産事件が1件も無いとのことです。そして、カタールの裁判官たちは今年になって、倒産事件における運用について協議をしたとの報道もあります。

日本を含む世界中の国が中東地域に巨額の投資を多数しており、失敗した投資案件もあっても決して不思議ではないのですが、中東地域の裁判所に係属した大規模倒産事件の話は聞きません。(知っている方がいらしたら教えてください。)筆者が知るところでは、ドバイ国際金融センターでアセットマネージャーが倒産した事件は、ドバイの倒産処理法が使われた最初のケースであるという報道程度です(2007年9月の報道)。(http://www.khaleejtimes.com/DisplayArticleNew.asp?xfile=data/business/2007/September/business_September717.xml§ion=business&col)ドバイ国際金融センターほ倒産処理法は2006年に制定されたと伝えられていますが、1年後に第1号事件が係属したというのは、日本の感覚ですと、少ないと思います。

このように考えると、法律は存在しても使われていないような気がします。

仮に使われていないとすると、何故使われていないのかという疑問も生じます。どこかで読んだ話ですが、中東地域の人は破産宣告されることを、自分自身や家族や自分が属している部族社会や地域社会に対する恥辱と考えるので、破産宣告をするようなことはしない、という話があります。

これが本当だとすると、文化あるいは法意識の違いとしか言いようが無いと思います。

金融取引のインフラストラクチャーとしては、最悪の場合ー倒産した場合ーに備えて倒産処理手続きが整備されているということだと思います。ところが、法律があっても使われていないとすると、倒産した場合どうなるのか、債権者間の平等が確保されているのか、担保権の行使はできるのかなどについて、予測可能性が低いのではないかという感想を持たざるを得ません。

もっとも、プロジェクトファイナンスでは、ホスト国のサポートをなんらかの形で取りますので、最終的にはパリクラブ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96)へ行ければ良いと問題を整理してしまうことも考えられますが、今後ホスト国のサポートが得られないようなディールではどうするんでしょうね?

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