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2008年6月18日 (水)

イスラム金融(15)イジャーラ

本日は契約型のイスラム金融の二つ目として、イジャーラ(Ijarah)について少し書きます。契約型のイスラム金融の一つ目のムラーバハについては、2008年6月9日の記事で書きました(→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.html)。

イジャーラとはイスラム流リースです。考え方としては日本の賃貸借とよく似ていますが、現物と金融との結びつきを重視するイスラム法の考え方を反映して、日本の賃貸借とは違う点があります。

1. イスラム流リースであるイジャーラにおいては、「物に対する利用権」の売買という考え方をとっています。

2. レッサー(mu'jir)(貸主、賃貸人)はリースの目的物の所有者であることを要します。所有者でない者が賃料を取り立てるのは、金銭の貸借と同じであり、利息の禁止に反すると考えるためです。

3. レッサーがリースの目的物を所有していることを要するので、修理費用、保険料その他の賃貸物件にかかる維持コストはレッサーが負担すべきと考えられています。目的物の滅失毀損に関する危険負担もレッサーとされています。もっとも、自動車のリースにおいて燃料は賃貸物件の使用にかかるコストですので、レッシー(musta'jir)(借主、賃借人)が負担すると考えられています。

4. もっとも、レッサーの側にどの程度目的物に関する支配が残っていればよいかについては、議論があるようで、例えば、米国の税法上の理由からレッシーに税金を負担させることが出来るというfatwaも存在するとのことです。(fatwaについては、2008年5月1日の「イスラム金融(2)ファトゥワ(fatwa)と先例拘束の記事(→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/fatwa_d981.html)をご参照下さい。)

5. レッシーの債務不履行の際の損害賠償の約定は、利息の禁止に抵触するという理由で禁止されています。

ところで、リースにはいわゆるファイナンス・リースとオペレーション・リースがありますが、ファイナンス・リースはイスラム法において許容されるのでしょうか?ファイナンス・リースでは、レッシーが目的物の所有にかかるリスクを負担します。リースの中途解約の場合規定損害金としてリース期間満了時までの元本と金利分を支払う旨リース契約には書かれています。こうしたファイナンス・リースに通常存在する規定は、イスラム法では認められない、とイスラム金融に関する本では書かれています。

さて、応用問題ですが、改正された銀行法施行規則において銀行子会社がイスラム流リースであるイジャーラを行うと仮定します。わが国の法律ではリースをする場合でも業法の規制がかかるものがあります。例えば、医療機器の場合、薬事法第39条第1項により高度管理医療機器又は特定保守管理医療機器にあたるとして厚生労働大臣の指定を受けたものの賃貸は、薬事法における賃貸業の許可が無いと出来ません。そうすると、この種の医療機器をイジャーラによりリースをする場合、賃貸業の許可を取得しなければならないのではないか、という疑問があります。

医療機器のファイナンス・リースについては、レッサーが「貯蔵、陳列その他の管理を行う場合」に限り許可が必要とされているので、賃貸業の許可なくして可能です。

ところが、上記の通り、イスラム金融の手法としてファイナンス・リースが出来るかどうか疑問があります。そうすると、賃貸業の許可が無いと上記のタイプの医療機器のリースが出来ないのではないか、という疑問が生じるわけです。高度な医療機器の場合、何十億円もするものがあるそうですが、まさにこのような医療機器についてこそ、資金調達が必要になると考えられますが、たぶんこうした医療機器には「高度管理医療機器」とか「特定保守管理医療機器」に該当するものがあるのではないでしょうか?

また、イスラム金融におけるイジャーラではレッサーが修理を負担するとされていますが、そうすると、今度は修理業(薬事法第40条の2第1項)の許可が必要とも考えられます。

以前の記事で、銀行業界に対するイスラム金融の解禁の結果、現物を所有することにより金融機関が新たなリスクを負担することにならないかということを書きましたが(2008年6月9日「イスラム金融(13)ムラーバハ→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/13_1098.html)、これに加え、業法の解釈運用如何によっては、イスラム金融の利用できる範囲が狭くなってしまうという問題があると思います。

(追記)2009年1月6日

この記事を最初に書いたときには、イスラム金融がどのような形で解禁されるのかが、公開資料においては明確ではなかったため、「銀行法の改正」という表現をしていますが、その後の政省令等の改正案の公表とパブリックコメントに対する金融庁の回答から、ムラーバハとイジャーラについては銀行法施行規則において取り入れられたことが明らかになりました。

金融庁のパブコメ回答によれば、改正により新設された銀行法施行規則第17条の3第2項第2号の2において、ファイナンス・リースの形態によるイジャーラが銀行子会社・兄弟会社に許容されていることは確かなのですが、筆者に言わせればイジャーラはオペレーティング・リースに類似していると思われ、金融庁のパブコメ回答の趣旨を量りかねています。

もっとも、ファイナンス・リースであれば薬事法の賃貸業の許可なくして銀行子会社・兄弟会社は医療器具のイジャーラが出来るということになるのでしょうが、ファイナンス・リースの性格を有する契約について、シャリア適格(イスラム法への適合性)が認められるのかどうかという疑問はやはり残ります。

改正された銀行法施行規則についてはこのブログの別の記事をご参考になさっていただければと存じます。

「イスラム金融(28)銀行法施行規則の改正(3)」→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/283-d35f.html

「イスラム金融(29)銀行法施行規則の改正(4)→http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/294-c325.html

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コメント

いつもブログを読ませていただいております。

ファイナンス・リースにおいては「中途解約不可」となっている契約もあるかと思いますが、その場合でもイスラム法では認められないのでしょうか?

「イジャーラにおいて中途解約不可とすることが可能かどうか」というご質問を頂きました。

このことを正面から論じている文献には接したことがないのですが、中途解約の申し入れを禁止する規定をイジャーラ契約に入れること自体は可能だと思います。イスラム法でも契約遵守の原則はあります。

但し、以下の理由から、そのような条項を入れてもファイナンス的には意味が乏しいのではないかと考えております。

我々が一般に触れているファイナンス・リースでは中途解約が行われた場合には、残存リース期間の債務全体を「規定損害金」として支払えという規定があるのが一般だと思います。
しかしながら、これは不労所得のようなものと考えられており、イスラム法では認められていません。このことは幾つかのイジャーラに関する文献でも明確に書かれています。

また、両当事者の責に帰すべからざる事由によりイジャーラの履行が不能となった場合、同様に規定損害金の支払いはイスラム法に反すると考えられています。イスラム流リースであるイジャーラでは、イジャーラの目的物の所有権にかかる危険は貸主が負担します。従って、このような場合には、貸主は借主に対して規定損害金の支払いを請求できないまま、イジャーラが終了してしまう、というのが答えだと思います。

原典を確認している暇がなく記憶で書いていますが、銀行系のリース会社では確かファイナンス・リースしか認められていなかったと思います。従って、現行の仕組みの枠で銀行系のリース会社がイジャーラを活用できるのかどうか、ちょっと疑問があります。

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