« イスラム金融(13)ムラーバハ | トップページ | イスラム金融(15)イジャーラ »

2008年6月14日 (土)

イスラム金融(14)アブダビ政府系ファンドによる神戸医療特区への投資

6月13日の日経新聞の朝刊の記事に、アブダビ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%80%E3%83%93)の政府系ファンド(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%89)であるムバダラ開発が、2010年に神戸市内の人工島ポートアイランドに作られる高度医療専門病院に100億円規模の投資する、というニュースが報じられていました。(http://markets.nikkei.co.jp/kokunai/hotnews.aspx?site=MARKET&genre=c1&id=AS2C1201P%2012062008)

新聞記事によれば、医療法上株式会社が病院を経営することが出来ないため、病院の施設をSPCが所有し、これを病院にリースする仕組みがとられるということが書かれていました。

6月5日のこのブログでイスラム投資ファンドのことを書いたので(イスラム金融(11)投資ファンドの項目 http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/11_9305.html)、タイミング的にはばっちりでしたが、筆者はこの件には関与はしていません。従って、以下のコメントは傍観者としての立場でのコメントです。

1. まず、イスラム金融における考え方として、酒、豚、賭博及び娯楽に関する事業への投資は禁止されていますが、これはいわばnegative listです。6月5日のブログでは記載していませんが、社会的に有用な事業への投資は促進するという考え方もあり、こうした観点から考えますと、アブダビのソブリン・ウエルス・ファンドとしては、投資し易い事業であったのだと思います。

2. ただ、ちょっと気になる点は、最近は動物を利用して作った医療製品もあるそうで、豚から作ったものはどうか、という疑問があります。古い話になりますが、2001年1月インドネシアにおいて、「味の素の製造過程において豚の酵素を使用するのは、イスラムの教えに反しており、消費者保護法に違反する。」という理由で、インドネシア味の素に対して製品回収命令が出されたことを記憶されている方もいらっしゃると思います。(http://www.kyoiku-shuppan.co.jp/kousha/wadai.pdf/wadai13.pdfあるいは、http://www.jakartashimbun.com/pages/ajinomoto.htmlなど、「インドネシア、味の素、豚、イスラム教」でインターネットのサーチをかけると沢山記事が見つかります。)医療製品で豚が原料になっているものが無ければ、問題が無いはずですが、そうでない場合、当事者はどのように問題を解決したのでしょうか?イスラム金融によるプライベートエクイティ投資の投資先の事業の内容に制約がかかる場合もある、という話も聞いたことがあるので、ちょっと関心がある点です。

3. 次の関心事は投資方法です。株式による投資も考えられますが、そうすると、SPCは会社法上の大会社になり監査役会を設けるとか、会計監査人が必要とか、二重課税が発生するか、といった問題が発生しますので、おそらくアブダビの投資ファンドによる投資方法としては、匿名組合方式の可能性が高いのではないかという気がします。

4. 匿名組合方式を用いるメリットとしては、組合型のイスラム金融の手法の一つである、ムダーラバ(mudaraba)として構成し得るということです。4月30日のこのブログで扱いましたが、わが国の匿名組合制度とイスラム法におけるムダラバとは、起源を同じにする制度で、親戚同士のようなもので似ている点があります(イスラム金融(1)ムダーラバ(http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/1_ea82.html)。また、税制面でも損益のパススルーが出来るのが原則ですから、使い勝手が良いように思えます。

5. 新聞記事によれば、SPCは病院に医療施設をリースするとのことですが、イスラム金融ではリースは「イジャーラ」と呼ばれており、投資先のSPCはイスラムの教義に適した事業(イジャーラ)を行っているという見方が可能だろうと思います。

6. もっとも、匿名組合出資で集めた資金をもって、病院の建物と土地を購入しリースするとなると、不動産特定共同事業法に該当しないかという問題があります。lまた、ダブルSPCなどで不動産特定共同事業法に該当しないようにしても、金融商品取引法の集団投資スキームに該当しないかといった問題点はありますが、このあたりは大勢の人たちが議論しているところです。

7. もう一つ関心がある点としては、病院の建設資金として、銀行借り入れなどのデットを導入する場合どうか、という点です。6月5日のこのブログ(イスラム金融(11)投資ファンドhttp://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/11_9305.html)で記載したように、債務のある会社への投資は、イスラム教の戒律に反する可能性がありますので、SPCへローンを出すというのは、問題が出てくるかも知れません。考えられる方法としては、例えば、SPCをもう1個作り、銀行が融資するSPCとイスラム投資家が投資するSPCと分けるといった方法があり得ますが、新聞記事でも銀行による融資が予定されているかどうか何も報道されておらず、こんなことは考える必要は無いのかも知れません。

« イスラム金融(13)ムラーバハ | トップページ | イスラム金融(15)イジャーラ »

イスラム金融」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« イスラム金融(13)ムラーバハ | トップページ | イスラム金融(15)イジャーラ »