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2008年6月 9日 (月)

イスラム金融(13)ムラーバハ

先週末の6月6日に「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が成立しました。(http://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html)同法律のタイトルは「金融商品取引法」となっていますが、銀行法・保険業法の改正も行っており、イスラム金融を営む会社を、銀行・保険会社の子会社や兄弟会社とすることを認めている点が注目されます。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、イスラム金融(1)(2008年4月30日分http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/1_ea82.html)で扱ったムダーラバとイスラム金融(10)(同年6月4日分http://shoko-hajime.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/10_6fbc.html)で扱ったムシャラカとが「組合型」のイスラム金融であると定義するとしたら、「契約型」のイスラム金融として大きく分けて4種類あります。そのうち、ムラーバハと呼ばれているものは、金融機関が商品を購入しそれに一定のマークアップをつけて買主に、代金後払いで売るというものです。分割払いで支払うこともあります。要するに、イスラム法においては利息が禁止されているので、商品にマークアップをつけ代金後払いで売ることによって、利息付の取引と同じような経済的効果を得ることを意図しているわけです。従って、商品の買主は実質上は借主といえるわけです。

ムラーバハは売買を発展させた金融手法ですから、売買に関するイスラムの戒律が適用されます。例えば、酒、豚肉などを対象とすることはできず、売主が売買目的物の所有権を有し、占有(占有しているとみなされるものでも良い)していることを要する、といった原理が適用されます。これは預言者マホメッドが「穀物を買う者はその重さを量るまでは売ってはならない。」「穀物を買う者はその完全な占有をするまでは売ってはならない。」と述べていたことが根拠として挙げられています。

また、売主となる金融機関は対象となる商品の取得価格(原価)を買主である借り手に対して開示をしなければ、有効なムラーバハにならないとされています。さらには買主がディフォルトをした場合、期限の利益の喪失をさせることは認められても、いわゆるペナルティは取れません。利息の禁止との関係で問題があるといわれているからです。しかしながら、ディフォルトをした買主に対してペナルティにあたるものを、慈善事業に寄付させることは認められています。

このように、わが国の割賦売買に似ているのですが、イスラムの戒律による制約があるわけです。

今回の法改正によりイスラム金融が銀行・保険会社のグループの業務範囲に含まれることが明確化されたわけですが、未解決の問題もあると考えられます。

例えば、売買におけると売主と同様に資金提供者が現物の所有権を取得するということになると、税務上は売買と同じ扱いになるのでしょうか?この点はこれから議論が行われるのだと思います。

もう一つ気になるのは、一旦現物の所有権を取得するとなると、理論上はその現物に関するリスクを負担する可能性があるということです。当該商品が思いもよらない有毒物質を含んでいた場合、金融機関が商品売買の売主と同様の責任を負うのかどうか、といった疑問もあります。瑕疵担保責任免除の合意をするとしても、今度はそのような合意がイスラムの戒律で許されるのかという問題もありえます。そのような合意が可能であったとしても、近隣住民に被害が生じた場合には、どうしようも無いのではないかと思います。さらには、立証責任が転換される製造物責任法が適用されるなどという話になると、金融機関としては及び腰にならないかなぁという心配もあります。

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