イスラム金融(10)ムシャラカ
組合型のイスラム金融の手法のうち、ムダラーバと呼ばれるわが国の匿名組合と起源を同じくするものは、以前このブログでちょっと書きました。本日はムシャラカと呼ばれる組合型のイスラム金融について、書きます。
そもそもムシャラカという用語は伝統的なイスラム法には無く、イスラム金融の分野で最近になって使われるようになったものだと言われています。
イスラム法には法人概念が無く、共同事業を組合ないしパートナーシップの概念で構成しています。制定法で法人概念を創設しているイスラム国家はありますが、それはイスラム金融で問題とされるイスラム法の問題ではないと考えられます。
イスラム法には"sharing"を意味する"shirkah"という用語があります。"shirkah"は、組合やパートナーシップに相当するものばかりでなく、共有や合有にあたるようなものを含む広い概念ですが、ムシャラカとは、"shirkah"のうちの組合やパートナーシップに相当するものに限定した意味で、構成員が財産や労務を出資し共同事業を行う契約であると定義できると考えています。このように考えると日本人にも理解しやすいのではないでしょうか。
正確とは言いかねますが、日本人にわかり易く組合型イスラム金融を整理すると、ムダラーバ=匿名組合でムシャラカ=民法上の組合又はパートナーシップです。
もっとも、イスラム法学者の間でもイスラム流パートナーシップであるムシャラカの要件については見解が一致しておらず、例えば、構成員の間での利益分配の割合をその出資割合と異なるように定めても良いかどうかについて、学説が分かれています。
ムシャラカは共同事業ではありますが、日本の民法上の組合で言えば、業務執行組合員に相当する者を選任できます。但し、無議決権持分のようなものは許されないと考えるのが一般的のようです。また、一定の利益を優先して分配する優先株のようなものも認められていないと書かれた書物もあります。
細かいルールは他にもあるのですが、ブログという性格上省略します。
さて、実際上どのように利用されているかですが、住宅金融での利用は盛んであるようです。例えば、資金提供者と住宅購入者との間でイスラム流パートナーシップであるムシャラカを組成し、住宅を購入するとします。購入資金のうち9割を資金提供者が拠出し、残りの1割を住宅購入者が拠出したとすると、住宅は資金提供者と住宅購入者とが9対1の持分割合で共有することになります。
そして、住宅購入者は9割の共有持分を資金提供者から賃借して、購入した住宅に住むわけですが、別途9割の持分を資金提供者から分割払いで購入する約束をするわけです。分割払いをするたびに少しずつ資金提供者の共有持分は住宅購入者へ移転します。そして、分割払いが終了すれば、当該住宅は住宅購入者の単独所有となるわけです。
他方、分割払いをしている間における住宅の賃料は、資金提供者の持分が減少するに従って、それに合わせて減額され、最後はゼロになるわけです。
これに関しては、例えば、「住宅購入者による持分の買取は当初における住宅の購入の条件としてはいけない。」とか「持分の買取と賃貸借を相互に条件をつけることは許されない。」といったイスラムの教えからくる制限があり、契約書の仕組みを少し工夫する必要があるといわれていますが、この点については、基本原理にさかのぼって説明をしないとわからないと思いますので、本日はそのような制限があるということだけを述べておきます。
大型プロジェクトでの利用では、例えばエミレーツ航空が本社ビルの建設の資金調達に利用されています。このプロジェクトではSPCとエミレーツ航空とがムシャラカを組成し、本社ビルを建設。SPCはムシャラカ債券を発行して資金を調達したという事案です。
そのほか、イスラム流パートナーシップであるムシャラカが利用された例としては、ボスポラス連絡橋プロジェクトやマレーシアやイランにおける有料道路建設プロジェクトにおいて、使われておりムシャラカ持分を表章する有価証券も発行されたとのことです。
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