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2008年5月 1日 (木)

イスラム金融(2) ファトゥワ(fatwa)と先例拘束

イスラム法に先例拘束の原理があるか?という疑問を持って調べたことがあります。このことを体系的に記載してある文献にはお目にかからなかったのですが、西欧的な法制度でいうような先例拘束の原理は無いと書かれた文献はありました。

もっとも、fatwa(複数形はfatawa)と呼ばれている、イスラム法学者が下した判断を集積したものはあるようです。英文で恐縮ですがWikipediaのfatwaの説明が参考になります。http://en.wikipedia.org/wiki/Fatwa

イスラム法学者が過去の類似の事例についてどのような判断を過去において下しているかという意味においてある程度参考になりますが、色々な文献を読んでいると、「未公開のfatwaがある。」という注記に接したことがありました。つまり、過去のfatwa全部が集積されたデータベースはこの世の中に存在しないということです。

インターネットでもfatwaの一部を見ることができますが、その分類はかなり雑で、先日も「倒産」を意味するinsolvencyで検索をしたら、「お金が無くて払えないのでどうしたらよいか?」という質問に対して、「頑張って払いなさい。」という趣旨の回答をしているfatwaもありました。身の上相談のようなものまでfatwaのデータベースに含まれており、必要なものを探し出すのは容易ではありません(コツのようなものがあるのかも知れませんが…。)。

このことは、西欧的な感覚で法律業務に携わってきた者にとって非常にショッキングなことでした。米国は判例法の国ですが、米国の法科大学院の図書館には米国が独立した時以来の膨大な連邦法と州法に関する判例集が並んでおり、オンラインサービスも充実しています。また、検索に便利なように判例の分類には一定のルールがあります。「先例拘束の原理」とは正にこのようなインフラが存在する社会において成り立つものだという実感を持ちました。

このように先例拘束の原理の考え方が定着しておらず、しかもそれを支えるインフラが無いというのが現状ではないかと思います。(ちょっと言い過ぎかも知れませんが…。)

更に、イスラム法の法源として最高位にあるコーランは7世紀のマホメットの時代の北アラビアの方言で書かれているそうです。わが国の法律は明治時代以降に立法されていますし、最近はかなりの分野で現代語化が進んでいますので、日本語さえできれば、六法全書を見て弁護士が言っていることが正しいかどうかの確認をすることもできるでしょうが、現代アラビア語が出来る方でもそのようなことが出来るのでしょうか?結局イスラム法学者が言っていることを鵜呑みに信じるしかないのかも知れません。

従って、先例を調べることによって事案の解決を予測するという「予測可能性」が低く、しかも非常に数が少ないといわれているイスラム法学者によって解釈権が握られているという意味において、透明度が低いという印象を持っています。

そんなこともあって、非常にスロー・ペースですが、イスラム法に関するデータベースを少しずつ作っています。このブログではその作業の際に思ったことを書いているわけです。

以上

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コメント

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

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